自・自合意は日本を救えるか(98.11.20)
【4時間以上かかった小渕・小沢党首会談】
11月19日(木)午後0時20分、自由党小沢党首は昼食もとらないまま、単身で首相官邸に乗り込んだ。それから午後4時30分過ぎに党本部に戻るまで、4時間以上にわたって、小渕自民党総裁と小沢自由党党首の党首会談が続いた。相手側には、野中官房長官のほか、森幹事長、池田政調会長、深谷総務会長、古賀国対委員長などが居たが、大筋で合意に達するまで小沢党首は一人で頑張った。そして、両党首間で大筋合意に達したあと、文章化する過程で、自由党側からも野田幹事長と二階国対委員長が加わった。党本部に戻った時、さすがに小沢党首は「腹がへった」とつぶやいた。
小沢党首が昼食もとらずに4時間以上頑張ったのに対し、小渕総理・総裁も、その日来日したクリントン米大統領をゲストとする午後3時からの宮中お茶会への出席をキャンセルして頑張った。あの小渕さんでは想像もつかない程の指導性を発揮し、小沢党首と差しで会談を続け、とうとう合意が出来上がったのである。
【政策協議、予算編成、連立内閣、選挙協力などで一致】
両党首が合意した内容は五つに分かれる。
第1に、小沢党首が提案した政策について、両党は基本的方向で一致したので、これに基づいて直ちに両党間で協議を開始する。この小沢提案については、この後で詳述する。
第2に、今月27日から始まる臨時国会の運営については、自由党は政府・自民党に協力する。
第3に、来年度予算の編成は両党協力して年内に行なう。
第4に、来年度予算編成後1月の通常国会までの間に、自民党と自由党の連立内閣を発足させる。
第5に、自民党と自由党は国・地方を通じて選挙協力体制を確立する。当面の衆議院選挙については、現職優先を原則として小選挙区の候補者調整を行う。
【官僚の国会答弁廃止、大臣・国会議員・公務員の削減】
以上の五つの合意のうち、第1の小沢提案の中味は三つに分かれている。
第1は政治・行政改革だ。官僚(政府委員)が大臣に代わって国会で答弁する制度を廃止し、国会審議を与野党の国会議員が討論をする形に改める。そして与党の議員は大臣、副大臣、政務次官、政務補佐官として政府に入り、政府と与党を一体化する。これは、明治以来の官主導の国会を改め、官に対する政の指導性を確立する抜本的な政治・行政改革である。
また中央省庁を1府12省に減らし、閣僚は金融所官大臣を含めて14名とする。国会議員は、衆参両院で50名づつ、合計100名減らす。国家公務員は10年間で25%削減する。
以上の実現に必要な法整備は、来年1月から始まる通常国会で行なう。
これらの行政改革によって浮く経費は、後に述べる所得課税・法人課税の減税財源とする(いわゆる「行革減税」)。
【冷戦後に適した安全保障体制の確立】
小沢提案の第2は、安全保障である。
日本国憲法は、急迫不正の侵害によって日本人の生命、財産が脅かされた場合を除き、武力の行使を禁じている。この立場から、冷戦後に適した安全保障体制を検討し、確立する。また国連から要請があった場合は、国連の平和活動に参加する。
これらの原則に基づいて、ガイドラインを始めとする安全保障の法整備を行う。去年からいらいらして待っていた米国政府は、これでほっとするだろう。北朝鮮からミサイルが頭越しで打たれる昨今、日本国民も危機管理の法制化で少しは安心できるのではないか。
【消費税の税率・使用目的の抜本的見直しと10兆円減税】
小沢提案の最後は税制改革である。
経済・社会の構造改革、とくに社会保障制度の基盤強化と、直面する経済危機を克服するため、消費税については、税率・福祉目的への限定(基礎年金、高齢者医療、介護等)など抜本的な見直しを行う。自・自提携のため、自由党は消費税引下げの主張を引込めたという一部の新聞報道は、デタラメである。
また、所得税、住民税などは、10兆円を目途に大幅減税を行う。これに伴ない、法人関係税の実効税率は40%へ引下げる。10兆円減税は、これまで自民党が言ってきた6兆円強を大きく上回る。
【自社さ合意と違い、自由党は基本政策を変えない】
以上の小沢提案は、いずれも自由党の基本政策である「日本再生へのシナリオ」に書かれている政策であり、税制改革の一部は、最近自由党が主張している政策である。
従って、今回の両党首会談の合意は、自由党の基本政策を自民党が基本的方向で認め、来週から両党間で政策協議に入るという合意である。これは自社さ連立の時のように、社民党やさきがけが自分達の主張を取下げ、政権党の自民党にすり寄ったのとは訳が違う。政権党の方が自由党の基本政策に近寄ってきたのである。
【今回の自民・自由合意の意味】
いわば自民党という大きな船は、度重なる政策の失敗によって国民の支持を失い、本年の参議院選挙のあと沈みかかっている。この船を沈めてしまえば、自民党一党支配の政治が終わる。何故反自民を貫いてそうしないのかという疑問もあろう。
しかしこの船は政権党であるため、1億2千万人の国民が乗っている。日本国民もろ共この船を沈めて、日本の危機をこれ以上深め、大混乱に落し入れてよいものであろうか。
われわれ自由党は小船だが、沈みかかった大船に乗り移れといわれても拒否する。しかしわれわれ自由党は「日本丸」を再建する設計図(基本政策)を持っている。この設計図で新しい船を建造するから一緒に乗ろうというのであれば、愛する日本を建て直し、日本国民を救うため、新しい船を作って乗ってもよい。
これが今回の両党間合意の本質である。
【成否は自民党側の対応に懸かる】
従って、今後を展望すると、合意を巡って自由党側に問題が起きる可能性はない。合意の内容は、もともと自由党の基本政策だからである。
問題が起きるとすれば、自民党の側であろう。日本の危機を解決し、日本の再生を図るため、自民党の国会議員が自由党の基本政策を呑めるであろうか。また小渕総裁・総理に、自民党内を説得してこの合意を承認させ、実行させる指導力があるのだろうか。
すべては、今後の自民党内の動きに懸っている。もしこの合意通りに実行に移され、三つの小沢提案(自由党の基本政策)の政策協議が整えば、日本経済は明年上期に底を入れ、実力相応の3%成長軌道に向って回復して行くであろう。
20日(金)に日経平均株価が425円も上昇したのは、その期待に基づくものであろう。この期待を裏切ることにならないよう、自民党側で合意を守ることが出来ることを、日本国民のために、切に祈ってやまない。