異例づくめの国会幕切れに金融健全化法成立(98.10.14)



【金融建全化法案は自自公の共同修正で成立】
  10月13日(月)午後、自民党提出の金融健全化法案は、自民党、自由党、平和・改革が共同修正したうえで、社民党の賛成も得て、衆議院を通過、この臨時国会(16日に終了)中に成立することとなった。また同日の深夜の本会議で、先に成立した金融再生法案とこの金融健全化法案の財政的裏付けとなる平成10年度第2次補正予算(金融再生勘定に18兆円、金融健全化勘定に25兆円の政府保証)が衆議院を通過した。
  これによって、預金保険機構には、預金者保護のための特例業務勘定に17兆円、破綻金融機関処理のための金融再生勘定に18兆円、不良債権早期処理・資本増強・経営体質強化による金融システム健全化のための金融健全化勘定に25兆円、合計60兆円の公的資金が準備されることとなる。

【用意された公的資金60兆円の意味】
  もっとも一口に公的資金と言っても、預金者保護の17兆円は使われれば戻ってこないという意味で納税者の負担、破綻処理の18兆円も破綻金融機関の健全な部分がうまく売却できる限りで回収できるが、経費として使われた部分は消えてしまうという意味で納税者負担、これに対して健全化の25兆円は資本注入という形で使われ、狙い通り経営が立直れば回収できるという意味で融資である。
  60兆円の公的資金はGNPの12%であり、ドルに換算すれば5千億ドルであるから、世界の人はびっくりするに違いない。日本国民もこれが将来世代の税金負担だと思えば、気がめ入るだろう。
  しかし60兆円のうちの半分以上は、金融システム健全化に成功すれば回収できる筈の融資であり、残りの税金負担も全部使われるとは限らない。すべてはこれからの景気動向と金融危機の推移次第である。そう考えると、小渕内閣の景気対策が「少ないうえに遅い(too little, too late)」ことにこそ、本当の心配の種がある。

【民主党を蚊帳の外に置いた水面下の接触】
  金融再生法案では、修正過程で民主党に引きずり回されてこりごりした政府・自民党は、今回の金融健全化法案では、政府・自民党案を発表する前に水面下で自由党と平和・改革に接触し、意見交換を始めた。自由党と自民党の場合、この水面下の意見交換は金融再生法案が衆議院を通過する10月2日(金)よりも前の9月30日(水)から始まって5回に及び、2日(金)夜には自由党の意見をある程度取入れた「金融システム早期健全化対策の概要」として水面上に現われ、各党に提示された。この時まで、自民党に不信感を抱かれた民主党は、完全に蚊帳の外に置かれていた。
  水面上に現れた後の5日(月)からは、自民党と野党各党の間で正式の意見交換が続き、その中で自民党は「概要」を法案化した「金融健全化法案」を野党各党に提示し、議員立法の形で衆議院に提出した。

【当初の自民党案の問題点】
  この「概要」と「法案」の最大の問題点は、このホームページのWhat's New欄「金融システム早期健全化の問題点」(H10.10.5)に書いたように二つあった。一つは、破綻処理の金融再生勘定をそのままシステム健全化の資本注入に使うとされ、金融再生と金融健全化の区別がついていないことである。もう一つは、債務超過の恐れのある金融機関にも資本を注入し、経営救済となり兼ねないことである。
  更に「概要」の前文に入っていた(正確に言うと自由党の主張で入った)「我が国金融システムの不良債権を速やかに処理すると共に」という文言が法案第1章の「目的」から抜け、総則のあと、いきなり第2章「金融機関等の資本の増強」から始まっていることや、資本注入の前提となる資産査定、引当て、その結果の自己資本比率の区分など「概要」に書かれていたことが法律に明記されていないことなども、大きな問題であった。
  従って自由党は、自民党が示した当初の法案には賛成できないと通告し、平和・改革も同じ態度をとった。

【大幅に譲歩した自民党】
  12日(月)朝に至り、自民党はこれらの問題点指摘をほぼ全面的に受け入れた修正案を野党に提示してきた。その結果、自由党と平和・改革は12日夜の党首会談でこれを受け入れ、自民党と共同で修正案を提出することとなった。私は自由党を代表して、この議員立法の共同修正案の提出者の一人となり、13日(火)の金融特別委員会では提出者席から答弁を行った。この共同修正案は正午に委員会採決のうえ、午後の本会議で衆議院を通過した。
  この間、野党に共同修正を呼びかけ続けていた民主党は、どの野党の同調も得られず、孤立したまま単独で修正案を提出し、否決された。

【異例ずくめではあったが今後はこれが常態化】
  これで第143臨時国会は峠を越え、予定通り16日(金)に終了するであろう。
  この会期は異例続きの国会であった。参議院で多数を失った自民党の小渕内閣は、金融再生法案では「野党案丸呑み」の上、民主、平和・改革と共同修正案を成立させ、金融健全化法案では大きく譲歩して自由、平和・改革と共同修正案を成立させ、旧国鉄債務処理法案では自由党提出の修正案に自民、社民が相乗りで成立させた。
  このように複数政党の共同修正となったため、これらの重要法案はすべて議員立法であり、官僚の影響力はかなり排除された。法制局も内閣法制局は暇で、衆議院法制局が大忙しであった。その過程では、与野党の「実務者」と称する専門家(多くは1〜3回当選者ではあるが弁護士などとして社会的経験を十分に積んだ者)が与野党接渉の最前線に立ち、官僚任せで実情を知らない自民党や民主党の執行部との間ではしばしば「司令塔不在」の様相を呈した。
  今国会のこのような姿は、これからは異例ではなくなり、今後の国会政治の常態となるのではないかと思う。