大詰めに近づく金融再生法案の処理 (1998.9.9)

【明確になった野党3会派案と政府・自民党案の違い】
  9月7日(月)から9日(水)までの3日間、衆議院金融安定化特別委員会において、政府・自民党提出の金融安定化6法案と、自由、民主、平和・改革(野党3会派)提出の金融再生5法案(うち信用保証法案の提出は9日)を対比し、審議が行なわれた。今後はこの3日間の審議を踏まえ、お互いの法案の処理について協議に入ることになりそうだ。
  私は、野党3会派5法案の提出者の1人として、他の6名と共に終始答弁席に座り、質疑に応じた。
  この質疑を通じて明らかとなった野党3会派案と政府・自民党案の主な相違点を整理すると、以下の通りである。

長銀対策
政府・自民党案;公的資本注入・合併促進
野党3会派案;整理のうえ、受皿銀行には公的資本注入可
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破綻前
政府・自民党案;公的資本注入で救済
野党3会派案;情報開示・自己責任でリストラ・金融措置法廃止

破綻後
政府・自民党案;公的ブリッジバンク方式
野党3会派案;法的清算、P&A、例外として公的管理

預金者
政府・自民党案;公的資金で保護
野党3会派案;公的資金で保護

借り手企業
政府・自民党案;公的ブリッジバンクで融資
野党3会派案;信用保証協会・保証公庫の拡充強化

行政主体
政府・自民党案;現状のまま
野党3会派案;金融再生委員会(3条機関)・委員長は国務大臣、日本版RTC
設立

原    理
政府・自民党案;不可欠性原理、too big to fail原理
野党3会派案;システミック・リスク原理
 
【長銀処理を巡る対立点】
  まず日本長期信用銀行の経営不振対策については、政府・自民党が金融安定化特別措置法に基づいて5千億円の公的資本を注入し、7千2百億円の不良債権処理に伴なう過少資本を是正して、住友信託銀行との合併を可能にすることを主張。これに対して野党3会派は、長銀は過少資本ではなく債務超過の疑いが強く、公的資本注入は違法となる可能性が高いと主張。金融監督庁の検査結果を待ち、債務超過の場合は業務停止命令を出し、公的管理の下に整然と経営を整理し、預金者と金融債保有者を保護するために公的資金を投入、不良債権を整理回収機構が引取り、残りを受皿銀行としての住信に継承させれば良いと考えている。また受皿銀行には公的資本を注入してもよい。
  また政府・自民党は、長銀への公的資本注入は長銀の経営救済が目的ではなく、長銀破綻がひき起こすシステミック・リスク対策だと主張。これに対して野 党3会派は、長銀の預金と金融債は全額保証されているし、国際的なデリバティブス取引は信用失堕で手仕舞ってしまったので、日銀特融でシステミック・リスクは十分回避できるとし、万一の場合は野党3会派案の特別公的管理制度(24時間以内に国有化)で対処しうると主張している。
このホームページの「雑誌掲載論文」欄9月7日付長銀問題に対する国民の疑問≠ニWhat's New欄8月24日付日長銀の経営危機と金融6法案の無能力≠ノ書いたように、政府・自民党の主張には説得力がないし、破綻させたくない本当の理由は、別のところにありそうだ。

【破綻前は自力更生か公的救済か】
長銀問題に限らず、一般に経営が悪化し始めた金融機関の破綻前処理についても、政府・自民党は金融安定化特別措置法に基づく公的資本の注入によって、破綻を未然に防ぐべきだと主張している。
これに対して野党3会派は、破綻していない金融機関は、不良債権を始めとする財務状況の情報開示を徹底し、優良行はその優位性を市場に訴え、問題行は他産業と同様に、自己責任で経営のリストラを発表し、実施すべきであると考えている。従って、野党3会派案には、情報開示の徹底と金融安定化特別措置法の廃止を織り込んでいる。
この破綻前処理の対立を長銀問題に当てはめれば、政府・自民党は金融安定化特別措置法に基づいて公的資本を注入し、野党3会派はそれに反対することになる。そのうえ、後になって長銀の債務超過が明らかになれば、経営の著しく悪化している金融機関に公的資本を注入してはならないという同法違反となり、小渕内閣不信任の理由になりうる。

【ブリッジバンクか法的整理・公的管理か】
不幸にして破綻し、民間受皿銀行が現れない場合、政府・自民党案では公的ブリッジバンクが破綻金融機関を引取り、不良債権を整理回収銀行に渡し、預金全額保証に必要な不足資金を預金保険機構から受け取って支払うことになる。
野党3会派の場合は、法的整理の手続きに入り、受皿銀行への継承か清算かいずれかの道を辿るが、その間の不良債権処理と預金者保護については政府・自民党案と基本的には同じである。
ただ、前述のようにシステミック・リスクが心配される場合は、特別公的管理の下に置き、あとは上記の法的整理と同じ道筋となる。
また破綻金融機関の借り手企業で他行へ移れない企業(U分類の貸出先が中心)が居る場合、政府・自民党案ではブリッジバンクが融資を継続することになる。
これに対して野党3会派案では、信用保証協会の保証を拡充強化し、他行へ移れるようにする。その方が、新たにブリッジバンクを作るよりも行政コストが安
く、また不良企業、不良債権を公的資金の追貸しで、2〜5年間抱え込むことを避けられる点でベターである。

【破綻前の公的資本注入が窮極の対立点】
以上が3日間の質疑で浮き彫りとなった政府・自民党と野党3会派の対立点である。
  政府・自民党は、破綻後の処理については政府・自民党案と野党3会派案の両案併記で選択肢を増やす形の妥協を図ろうとしているようだ。
また行政主体については、金融破綻処理の専任国務大臣を置き、大蔵省からの独立という野党案を実質的に受け入れることを考えているらしい。
しかし、破綻前の公的資本による経営救済の是否については、原理原則の対立であり、妥協の余地はない。野党3会派のうちのどこかの会派が、原理原則を曲げ、政府・自民党にすり寄らない限り、解決は不可能である。
自由党は、破綻前の公的資本注入に対して、あくまでも不公平、不適切な税金の使い方として反対して行くであろう。