日銀特融重視と信用保証協会活用に宮沢蔵相柔軟姿勢 (98.8.31)

−衆議院金融安定化特別委員会の総括質疑−

【激励の電話を頂いた金融法案の総括質疑】
8月28日(金)、衆議院金融安定化特別委員会において、政府・自民党提出の金融再生6法案について総括質疑が行われた。私は自由党を代表して小渕総理、宮沢蔵相、堺屋経企庁長官、速水日銀総裁との間で59分間の質疑を行なった。
この模様は、NHK総合テレビで終日放映されたので、既に観た方も居られるかと思うが、私自身が注目すべきだと感じたことを、以下にとりまとめてみよう。

私は、このホームページのWhat's New欄の8月26日付「金融再生法の野党3会派統一案と政府・自民党案は根本的に違う」に書いたように、政府・自民党案と野党3会派案は根本的に違うことを、質疑を通じて浮き彫りにすることを狙った。
それによってTVを観た国民の皆さんが、野党3会派案の方が公平でしかも実現し易く、公的資金の投入額を極小化しながら金融再生が可能だと感じて下さることを期待したからである。
私の質疑が終わった直後、TVを観ていた方10名以上から直ちに私の国会事務所に激励の電話を頂いた。ほとんどは存じ上げない方々である。力強いご支持に対し、心から感謝申し上げたい。

【ブリッジバンク法案が成立しないと打つ手なしは不見識】
質疑の中で、宮沢蔵相がこれ迄気付かなかったがこれから検討したい、と明確に述べ、野党案取入れに柔軟な姿勢を示した点が二つあった。
第一は、最後の貸し手(lender of last resort)としての日本銀行の特融の役割である。
27日と28日の委員会質疑の中で、小渕総理も宮沢蔵相も、ブリッジバック法案がまだ成立していないので、日本長期信用銀行が破綻すると打つ手はなく、支払不能の連鎖が広がり、大変なことになると繰り返し答弁していた。ブリッジバンク法案を早く通さないと大変なことになるが、その責任は野党側にあると言わんばかりの脅かしである。
これに対して私は、日長銀が破綻すると打つ手はなく大変だ、などと首相や蔵相が述べることは極めて不見識であり、そのような態度が国民に大きな不安を与え、株価急落の一因になっていると、厳しく批判した。

【日銀特融でシステミック・リスクは回避できる】
その上で、拓銀や山一の破綻の時がそうであったように、日長銀が万一破綻して支払不能に陥った時は、間髪を入れず日本銀行が無担保の特融(日本銀行法第38条)によって資金を供給し、支払いを可能にして支払不能の連鎖を未然に防ぐことが出来ると指摘した。このようにして金融市場や決済システムの混乱が発生するリスク(システミック・リスク)を回避するのは、最後の貸し手としての中央銀行の機能であることを述べ、この事を強調して国民を安心させるのが首相や蔵相の責務であると、私は厳しく迫った。
ところが始めのうち宮沢蔵相は向きになって反論し、日銀の特融で日長銀の経営を何日支えれるかと言う。私は宮沢蔵相が支払不能と言うキャッシュ・フロー (liquidity)の問題と債務超過というバランス・シート(solvency)の問題の区別がついていないのではないかと疑った。

【流動性不足と債務超過は違う】
特融は支払不能というキャッシュ・フロー(liquidity)の一時的不足を支える手段である。それによってシステミック・リスクを未然に防いだ後、日長銀はバランス・シートの清算に入るのである。その時、負債が資産を超過していなければ(solvency)、特融を含むあらゆる負債は返済される。営業も継続し得る。もし超過していると(insolvency)、債務超過分は、株主や劣後債保有者などの損となる。預金支払いに不足する分は預金保険がカバーする。この場合日銀特融は最も優先度の高い債務として、返済される。
この理屈にようやく納得した宮沢蔵相は、破綻時の対策として、日銀特融の役割に言及すべきであることを認めた。この間、小渕首相は黙ったままで、分かったのか分からないのか要領を得なかった。

【ブリッジバンク創設より信用保証協会活用の方が秀れた案】
次に、システミック・リスクを特融で回避した後の整理・清算の話に入り、政府案のブリッジバンク構想よりも、野党案の信用保証協会の活用案の方が簡素で実現し易く(従って行政コストも安く)、しかも公的資金の必要額が少なくて済むことを説明した。
公的ブリッジバンクは、他行に移れない主として第U分類の借り手に公的資金で融資を続けるのであるが、業績の改善した借り手企業はどんどん他行に移るので、結局業績の悪い企業の吹き溜まりとなる。その結果、2〜5年の期限が過ぎても継承したい銀行は現れず、その間に公的資金投入額は累増していくに違いない。だからと言って清算すれば、借り手企業は国によって破綻させられることになる。
これに対して、信用保証協会の再保険先である中小企業信用保険公庫に公的資金で特別枠を設け、特別に高い再保険率で信用保証協会に利用させて、破綻金融機関の第U分類借り手企業に保証して他行に移ることを可能にすれば、公的ブリッジバンクなどを作らなくても借り手を救済できる。
これには宮沢蔵相も「さすがと感心した」と述べ、政府案にとり込みたいという姿勢を示した。

【政府・自民党は野党3会派案にどこ迄乗れるか】
このように、政府・自民党は野党案のよい所だけをつまみ食いして自分の案に取り込む事を考えているが、野党3会派は政府・自民党が野党案を丸呑みにすることを期待している。この攻防が、今週(8月31日〜9月4日)から始まる。
政府・自民党がどうしても呑めない野党案のポイントは、@13兆円の公的資本注入を決めた金融安定化措置法の廃止(野党はこの法律による破綻前金融機関、例えば日長銀への公的資本注入に反対)、A金融再生委員会(2001年3月には廃止して金融庁となる)の創設とその下への金融監督庁、預金保険機構、大蔵省金融企画局の編入(野党は金融行政を完全に大蔵省から切り離すことを主張)、の2点だと言われている。
前述のように、ブリッジバンク構想については、これをやめて、野党の信用保証協会・保険公庫活用案に乗ってくるという選択もあり得よう。
もっとも、日銀特融によってシステミック・リスクを未然に防ぐことができるという考え方に政府・自民党が変われば、@も呑めるかも知れない。2001年3月には、政府・自民党の中央省庁再編法通り金融庁になるのだと割り切れば、それ迄の間Aでもよいと考えて受け入れることもあり得よう。