金融再生法の野党3会派統一案と政府自民党案は根本的に違う (1998.8.26)
【政府・自民党と対決する金融再生法案で野党3会派は合意に達した】
自由、民主、平和・改革の野党3会派は、政府・自民党提出の金融再生6法案に対する対決法案をとりまとめるため、8月6日以来、実務者協議(自由党から私が参加)と政策責任者協議(自由党から野田政審会長が参加)を重ねてきた。
その結果、昨夜(8月25日夜)に至り、統一案の共同提出について合意に達した。
この統一案は、日本の不良債権の早期処理と経営不振の金融機関の整理を進め、金融システムの安定を維持しつつ、日本の金融機能を再生させるためのパッケージ・ディール(総合対策)である。
従って、政府・自民党の6法案を修正したり、双方から歩み寄って妥協を図る性格の法案ではない。破綻前の金融機関に公的資金は投入しない、破綻金融機関は救済せずに整理・清算する、従来の大蔵行政の延長線上にはない金融再生委員会(委員長は国務大臣、いわゆる3条機関)が金融監督庁や預金保険機構を指揮して法的な整理手続きを行なう、など政府・自民党の考え方とは根本的に違う政策思想・政策体系に基づく法案である。
以下、両者の主な相違点を整理しよう。
【破綻前の金融機関を公的資金で救済することはしない】
政府・自民党は、金融安定化特別措置法に基づき、「経営状況が著しく悪化しているわけではない金融機関」が@資金調達が困難化する恐れや、A破綻して経済に悪影響を及ぼす恐れがある場合は、破綻前であっても公的資金を投入して自己資本を充実することを考えている。今回もこの法律に基づき、日長銀に対する公的資本注入を計画している。
これに対して野党3会派案は、破綻前の金融機関に公的資金を投入してその経営を救済すること自体に反対し、金融安定化特別措置法の廃止を法案に織込む。破綻前の金融機関は、自己責任に基づき、リストラの努力によって経営再建を図るべきであり、金融機関だけが国民の税金で救済されるなどという不公平は許されない。他産業で必死の経営再建努力を行っている経営者のことを考えれば、言語道断である。
もともと自由、民主、平和・改革などの各野党は、本年の第142回通常国会において、この金融安定化特別措置法案に反対したが、自社さ連立与党の数に押し切られて成立したという行きさつがある。(このホーム・ページの国会活動報告欄参照)。
【破綻金融機関はブリッジバンクとして生かさず清算する】
次に、不幸にして破綻した場合は、決済システムや内外の金融市場に支払不能の連鎖が広がらないように、最後の貸し手(lender
of last resort)である中央銀行(日本銀行)が、特融(日銀法第38条に基づく信用秩序維持のための無担保融資)を含む貸出を即座に実行し、混乱を防ぐことが出来ると野党3会派は考えている。現に、拓銀や山一の破綻の時はそうであった。日本銀行にはその能力があるというのが、野党3会派案の前提である。
こうしてシステミック・リスクを回避したあとは、金融再生委員会(前述)の任命する金融整理管財人が、破綻金融機関の債権債務を整理し、清算処分することを原則とする。政府・自民党案のように、破綻金融機関を公的ブリッジ・バンクとして、2〜5年間公的資金を使って生かしておくことはしない。ここでも公的資金による経営救済をしないというのが野党3会派案であり、公的資金(税金)の無駄使いをするのが政府・自民党案である。
ただし例外として、万一日銀特融などで、システミック・リスクを回避しきれない場合は、裁判所による24時間以内の決定に基づいて、一時的に破綻金融機関を公的管理の下に置く(全株式の強制的買い取り)。これは一時的な危機管理であり、2001年3月までには中止する。
【破綻金融機関の借り手企業には信用保証を】
このように、野党3会派案にある破綻金融機関の公的管理は、システミック・リスク対策としての例外的一時的措置であり、政府・自民党案のような経営救済を目的とするブリッジ・バンク案とは、まったく性格が異なる。
また政府・自民党のブリッジ・バンク案は破綻した金融機関の借り手企業で、他行に移れない「善意かつ健全な企業」に公的資金を使って融資を続けることを目的としている。「健全な企業」が他行へ移れないという事態は考えにくいが、1〜2期赤字を出し、累積欠損は抱えていない中小・中堅企業が第二分類(要注意)貸出先に入っているために、他行へ移れないということはあり得よう。
野党3会派案は、このような中小・中堅企業に対しては、全国に52在る信用保証協会が保証して、他行へ移れるようにする。そのため、中小企業信用保険
公庫法を改正し、同公庫に5〜10兆円程度の特別勘定を設け、信用保証協会が同公庫に再保険を掛ける補填率を90%以上に引上げ、また中小企業のみならず中堅企業もその対象に入れる。
【公的資金投入を極小化した短期処理】
以上のように、今回合意に達した野党3会派案と政府・自民党案は、根本的に違う。
野党3会派は、経営の自己責任に基づく市場原理を尊重し、法的手続きで破綻金融機関を清算する。破綻金融機関の経営救済、ゼネコン等の借り手救済につながる政府・自民党案のブリッジ・バンクは認めない。野党3会派案の破綻金融機関の公的管理は、一見公的ブリッジ・バンクに似ているが、目的がシステミック・リスク対策であり、従って一時的例外的で一切経営救済はしないという点が異なる。
また、失政を重ねてきた大蔵省の金融行政の延長線上で事を処理しないという点も異なる。
要するに、野党3会派は自己責任の市場原理に基づいた法的処理であり、政府・自民党案は市場に対する過剰介入と、大銀行経営救済の裁量的行政処理である。従って、野党案は公的資金を最小限に抑えた短期処理であり、政府・自民党案は公的資金(血税)を過大投入する問題の先送りである。