日長銀の経営危機と金融6法案の無能力 (1998.8.24)

【金融6法案は日長銀問題に役立たない】
日本長期信用銀行が、経営危機を克服するため、大規模なリストラ策を発表した。海外業務撤退とこれに伴なう所要自己資本比率の4%への引下げ、本店売 却、頭取以下の役員退任、日本リースなどに対する5200億円の貸出放棄を含む7500億円の不良債権処理、これに伴なう資本不足を補う5000億円超の 公的資本注入の申請などである。これによって、住友信託との合併を実現したいのだという。政府は全面的な支援を約束した。
この日長銀問題は、不良債権問題に対するこれ迄の政府・自民党の対応の誤りを、改めて浮き彫りにした。
第一に、この日長銀問題を解決する上で、いま国会に上提された金融6法案は何の役にも立たないことが明らかになった。ブリッジバンクが適用されないことからも明らかなように、金融システム危機にも発展しかねない日長銀の経営危機に対しては、再び行き当りばったりの公的資本注入で対応する以外にないのである。金融6法案が成立しなければ金融危機が発生するという宣伝は、政府・自民党がマスコミを操って作り出した大嘘であり、金融6法案を通すための謀略にすぎないことを、自ら露呈する結果となった。

【国民に情報を開示せず血税を注ぎ込む政府】
第二に、その行き当たりばったりの方法、つまり5000億円超の公的資本(税金)注入の前提となる情報が、国民にまったく開示されていないという不透明感がある。
日長銀のU、V、W分類の不良債権の額、それぞれに対する引当金の額、本店売却等のリストラで発生する簿価と時価の差、7500億円の不良債権処理の方法、その結果自己資本比率が何%になるか(自己資本比率がマイナス、つまり債務超過ではないのか)などの情報開示がないままに、国民の血税5000億円超を投入するとは何事か。
不良債権問題の抜本的解決のためには、まず各行別の不良債権と自己資本比率の開示が不可欠であるという自由党など野党の主張に耳を借さずここ迄来てしまった報いがいまここで出たといえる。このままでは、国民は日長銀に対する公的資本の注入に猛反対するに違いない。

【日長銀を追い詰めたのは景気回復の遅れ】
第三に、景気回復という追風を作り出さない限り不良債権問題の解決は不可能だという自由党の主張を無視してきたツケがここで出た。どんなに不良債権処理の枠組みを作ってみても、景気回復によって借り手企業の業績が好転し、また担保不動産の値上がりと流動化が進まない限り、不良債権は拡大再生産されるだけで解決には至らない。
米国の不良債権処理の枠組みは80年代後半から作られたが、それがうまくワークして不良債権問題が解決したのは、景気が本格的に回復し始めた92年以降である。
この事を考えずに橋本政権は、財政再建最優先のデフレ政策路線を突っ走って不良債権問題をこじらせた。小渕新政権も来年度にならなければ効果のでない7兆円減税や事業規模10兆円の第2次補正予算を打ち出しただけで何もしないでいるうちに、足許の景気はどんどん崩れ、ついに日長銀の経営危機が抜き差しならない段階に来たのである。

【システミック・リスクと第U分類の借り手が問題】
8月25日(火)から衆議院は金融6法案の審議に入るが、まず日長銀問題が討議され、これと6法案の関係が問題になるであろう。私も金融安定特別委員会の委員として、この審議に参加する。
これに先立つ8月23日(日)午前9〜10時、NHK総合TVの日曜討論に私は自由党を代表して参加し、次のような発言を行った。
金融機関が破綻した時、一般に三つの分野で問題が発生する。
第一は、支払不能の連鎖が広がって決済システムや内外の金融市場が混乱しないかというシステミック・リスクである。
第二は、預金者保護の問題である。
第三は、破綻金融機関の借り手企業、特に第U分類(要注意貸出)の企業が他行へ移れないという問題である。
このうち第二の預金者保護については、預金保険機構に17兆円の公的資金が用意されたので心配は要らない。従って問題は、第一のシステミック・リスクと第三の借り手の問題である。

【システミック・リスク対策は野党案にあって政府案にない】
政府・自民党の提出した金融6法案をみると、ブリッジバンク法案が第三の借り手問題に対応している。しかし第一のシステミック・リスクに対応する法案は何も出していない。日長銀のような大銀行の経営難は、一つ間違えるとシステミック・リスクを伴なうが、金融6法案にはその対応策が欠けているので、何の役に も立たないのである。
自由、民主、平和・改革の野党3会派が協議している対決法案には、このシステミック・リスク対策が入っている。自由党と平和・改革は、最後の貸し手としての日本銀行の特融こそがシステミック・リスクを未然に防ぐ手段であり、日本銀行の特融引当金(25%)が足りなければ、ここにこそ公的資金を投入するべきだと考えている。
また民主党案は、システミック・リスクを防ぐには公的管理が必要であり、日銀特融もその一つではあるが、場合によっては破綻した大銀行を一時的に国有化してもよいとしている。

【ブリッジバンク設立より信用保証の拡充がよい】
次に、借り手問題について、政府案はブリッジバンク法案を用意しているが、これでは破綻銀行とゼネコン、商社などの借り手の経営救済にヅルヅルと公的資金を注ぎ込むことになり兼ねない。このような問題の先送りと公的資金の投入の拡大に対し、野党3会派はいずれも反対している。
代わりに自由党は、破綻銀行の第U分類借り手企業で他行へ移れない企業には、全国に52在る信用保証協会の保証枠を拡充強化して保証し、他行へ移れるようにする案を持っている。これには、信用保証協会がこの分に限って90%まで中小企業信用保険公庫に再保険できる制度を作り、公庫には10兆円の公的資金を入れれば十二分であると考えられる。
自己査定の結果によれば、本年3月の第U分類貸出は、信組や農協を含む全ての預金取扱い金融機関で80兆円である。仮りに、全金融機関の4割が破綻したとしても(このような事はあり得ないが)、その第U分類の回収不能比率は20%弱であるから、32兆円の保険には、6.4兆円のロスが見込まれる。従って、10兆円の公的資金を準備すれば、十二分である。

【野党3会派は統一して対決法案を出すだろう】
このように、自由、民主、平和・改革の野党3会派の対決法案は、第一のシステミック・リスク対策の点でも、第三の借り手対策の点でも、政府提案の6法案よりも優れているいよいよ今週中には、野党3会派は合意に達し、法案の骨子をとりまとめ、来週以降、政府・自民党の金融6法案に対する対決法案として、衆議院に提出することになろう。
参議院で多数を失っている政府・自民党は、この野党案に妥協しない限り、いかなる金融法案も今国会では成立しないことになる。これは小渕内閣が窮地に立つことを意味する。
果たしてどうなるであろうか。