「金融6法案が成立しないと金融パニックが起きる」は大嘘だ (1998.8.17)
【いよいよ金融6法案の論戦が始まる】
今国会(第143回臨時国会)の最大の焦点は、金融6法案(政府提出2、自民党議員提出4)が成立するかどうか、成立するとしても自民党が過半数を大きく割り込んだ参議院を通すため、与野党間でどのような修正が行われるか、にある。今週(8月17日〜21日)の衆参両院の予算委員会で金融6法案を巡る前哨戦が始まり、来週(8月24日〜28日)以降の衆議院金融安定化特別委員会で与野党間の本格的な論戦の火ぶたが切られる。私も二つの委員会の常任委員として、これらに参加する。
諸外国の人々や市場では、この金融6法案が成立するかどうかによって、日本の金融危機、ひいては諸外国への悪影響(日本発の世界金融恐慌)が回避できるかどうかが決まるという見方があるようだ。
【6法案が成立しないとパニック、は嘘】
しかしこれは、政府・自民党が日本のマスコミを通じて作り上げた真っ赤な嘘であり、誤解である。
政府自民党は、96年の住専処理の際も、金融3法案が成立すれば金融システムは安定化し、信組以外には公的資金を投入しないで済むと言った。拓銀、山一の破綻のあと、本年始めにも、金融2法案が成立すれば金融不安は解消すると言った。しかし結果をみると、金融3法も金融2法も、自社さ3与党の多数で成立したものの、不良債権問題はますます深刻となり、公的資金の投入額はズルズルと拡大している。
今回の金融6法案、特に政府提出のブリッジ・バンク法案と権利調整委員会法案も同じだ。これらは、金融機関とゼネコンなどの経営を救済し、不良債権処理を先送りし、その結果公的資金の投入額は一段と拡大することになるのは目に見えている。これでは金融3法や金融2法の場合と同じで、金融危機の発生を先送りすることは出来ても、解決することは出来ない。
その結果、金融6法案の成立とは関係なく、市場の論理で金融パニックが何時発生してもおかしくない状態は続く。
【ブリッジ・バンクは公的資金を使った経営救済、問題先送り】
政府・自民党が提案しているブリッジ・バンクは、破綻金融機関に民間受皿銀行が現れない時に、公的な金融管理人がその経営を管理し、公的ブリッジ・バ ンクに引渡すことによって、「善意かつ健全な顧客」への融資を続けるという。
しかし、取引先金融機関が破綻すれば、「善意かつ健全な顧客」は普通ならば他の金融機関に取引を移すだけであろう。もし移せないとすれば、通常は民間の金融機関の眼からみて「善意かつ健全」ではないからだ。そのようなボーダーライン上の顧客(その中にはゼネコンやその子会社が多いと言われる)を大量に抱えて公的資金で延命させるのが、政府案の公的ブリッジ・バンクの役割である。これは公的資金を使った問題先送り以外の何物でもない。
もしその中に、他の金融機関に取引きを移せない「善意かつ健全」な中小企業が万一居るとすれば、中小公庫、商工中金、国民公庫など政府系の中小企業専門の金融機関と県保証協会の枠を拡大して解決に努めるのが筋である。
【権利調整委員会は政官業癒着の極み】
また政府・自民党が提案している権利調整委員会は、貸し手金融機関、借り手企業、その担保不動産に抵当権などの権利を有する第3者など、利害関係者が揃って調停を申請してくれば、貸し手金融機関の不良貸出の無税償却と借り手企業の無税債務免除(債務免除は贈与の一種であるから通常は利得として課税される)を認める形で調停するというものである。
これは、借り手の借金を棒引きにし、貸し手の不良債権償却はコストに計上して課税利益から差し引くという「平成の徳政令」である。その負担(得るべき税収の放棄)は、全部納税者である国民がかぶるのだ。こんな不公平な話があるだろうか。
このような調停は、本来ならば裁判所が公平の見地に立って行なうべきものだ。それを司法機関ではなく、行政機関である権利調整委員会にやらせると言うのだ。そこには当然のことながら、行政と業界の裁量的な話し合いや、それに介入する政治が出てくるだろう。要するにこれは、自民党政治の基盤である政官業の癒着を合法化して、実行しようというものである。
ここでも、「平成の徳政令」によって借金を棒引きしてもらえるのは、ゼネコンとその子会社など自民党の政治献金と票を集めている業界が優先されるに違いない。このような不公平で政官業の癒着を合法化する法案を通してみても、金融システム不安の解消にはまったく貢献しないであろう。
【野党3会派の統一的対案で野放図な経営救済や公的資金拡大は防げる】
いま自由、民主、平和・改革の野党3会派の実務者会議(私は自由党の代表)と政策責任者会議(野田幹事長が自由党の代表)において、政府・自民党の
金融6法案に対決する統一的な対案を協議している。ここでは、@破綻金融機関は延命させず、原則として清算する、従って延命を策する公的ブリッジ・バンクの設立には反対、A破綻の処理方策等については、大蔵省の金融行政から独立した準司法的機関が決定する、従って行政的な権利調整委員会の設立には反対、などが決まっている。要するに、政府提出のブリッジ・バンク法案と権利調整委員会法案には反対であり、野党統一案として対案を提出することを目指して協議している。
この野党案を政府・自民党が丸呑みして成立すれば、金融機関とゼネコン等の経営救済に公的資金が野放図に投入されたり、不公平な「平成の徳政令」が節度なく広がることは防がれる。
【金融パニックにはこうして対処せよ】
しかし、この野党案が成立しても、それだけで金融システム危機が回避されるとは限らない。不幸にして、万一金融パニックが発生するとすれば、それは深
刻な政策不況、それに伴なう不良債権の拡大再生産と問題先送りなどが極まって、大銀行19行の一角が破綻することによって起るでだろう。これに対してはいかなる金融システム安定化法案も既に手遅れである。
不幸にして大銀行の破綻に伴なう金融パニックが発生した場合には、一種の危機管理として、まず日本銀行が無制限無担保の「特融」(政府が日銀に保証)
によって支払不能の連鎖が広がることを防ぎ、決済システムの安定性を確保することである。これは、現行日銀法によって可能である。
次にその破綻大銀行を継承する受皿銀行を探し、ない場合には公的管理の下、司法的な清算手続きに入る。その手法をあらかじめ決めようというのが、野
党3会派案である。
その際、破綻した銀行に対する債権者の中に、経営不安の生命保険会社や農協が居た場合には、生保や農協といった夫々の業界で保険者保護や貯金者保護の手段を講じる。決して生保や農協の経営救済のために、破綻大銀行に公的資金を導入してはならない(農協の経営救済のために、6,850億円の公的資金を住専に注ぎ込んだ失敗を繰り返してはならない。)
【経済の立直しこそが根本的な対応策だ】
以上のような危機管理は、追い込まれた非常時の対応である。大切なことは、このような危機の根本原因である景気を、一刻も早く立て直すことである。
小渕内閣の7兆円減税も、事業規模10兆円の98年度第2次補正予算も、来年度にならないと効果が出てこない。しかも、7兆円のうちの4兆円は本年の減税規模と横這いであるから、ネット減税は3兆円にすぎない。第2次補正予算と99年度当初予算を加えたいわゆる15ヵ月予算中の公共事業も、第1次補正後の98年度予算の公共事業に比べてほぼ横這いである。この程度のことを来年度に実施しても、マイナス成長の続く足元の景気を立て直すことなど出来ない。
そこに本当の危機の原因がある。