橋本内閣退陣決定後の米国の論調を切る (1998.8.3)

−8月3日深夜のTBS「ワシントン・ウォッチ」−

【参院選後の米国論調を採り上げたTBSの「ワシントン・ウォッチ」】
橋本政権末期の数ヶ月間、欧米のマスコミは日本の経済政策に対して厳しい批判を展開していたが、クリントン政権は参院選の自民党圧勝という事前予想を真にうけて、橋本政権支持の態度をとっていた。ところが7月12日(日)の参院選において、自民党が予想に反して惨敗し、橋本内閣の退陣が決まると、米国の議会や民間シンクタンクでは、改めて日本の経済政策と背後にある日本の実情をレビューし始めた。
8月4日未明(3日深夜)の午前1時20分から2時20分までのTBSテレビ(東京地区は6チャンネル)「ワシントン・ウォッチ」では、参院選後に行なわれた上下両院の本会議や委員会における日本問題の討論と国際戦略研究所のシンポジウムにおける発言を採り上げている。
この番組には、私と慶応大学商学部深尾光洋教授がゲストとして招かれ、米国内の発言に対するコメントを求められた。
以下は、私が注目する諸発言とそれに対する私のコメントである。

【アメリカは自国金融市場への撹乱的影響を恐れている】
7月14日の上院財政委員会におけるウィリアム・ロス上院議員の発言、同20日の下院本会議におけるダグラス・ビーライター下院議員の発言、同23日の上院本会議におけるジョセフ・リーパーマン上院議員の発言、同21日の上院銀行委員会におけるアラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会議長の発言は、いずれも参院選の結果日本の政治情勢と改革の将来が極めて流動的になったという新しい認識を示したうえで、改革には長期を要するとは言え、改革のプログラムを早急に示さない限り、市場は待っていられないので、再び円安や金融システムの動揺が起きると警告している。
その中で、彼等が一様に指摘していることは、日本経済のアジア、アメリカ、更には世界の経済に対する影響力である。かつての日本の「一国繁栄主義」の裏返しとも言うべき「一国耐乏主義」(財政再建最優先で我慢しよう)は、グローバル化した国際経済の中における巨大な日本経済の地位から考えて不可能だということである。
ただ、彼等の指摘の中で一つ気にかかることは、不良債権問題の解決にウェイトがかかり過ぎていることである。不良債権問題の解決は日本経済再興の必要条件ではあっても、十分条件ではない。大規模減税や規制緩和が加わった時、始めて十分条件となる。
彼等が不良債権問題に高い比重を置くのは、日本発の世界金融恐慌、特に米国金融市場の撹乱を恐れているためである。その点は理解できるが、だからといって不良債権問題が解決すれば日本経済が立直ると考えてはならない。

【自民党政権の欠点を日本固有のやむを得ない性格と見ている】
7月20日の国際戦略研究所のシンポジウム「日本経済危機の世界に与える影響」では、ケント・カルダー駐日大使特別補佐官、ブラッドリー・ベルト同研究所国際金融部長、ティモシー・ガイトナー財務次官補など、いわば日本通の発言が紹介された。
とくにガイトナーは、日本経済の解決すべき問題は、マクロ経済政策による景気回復、不良債権処理による金融システム安定、および規制緩和と市場開放による構造改革、の3分野であると適切に指摘していた。
しかし、カルダーとベルトは日本の問題点を理解するあまり、やや同情的で甘い発言をしているのが気にかかった。
例えばカルダーは、日本のシステムでは決定に時間がかかり、しかも徐々に断片的にしか決まらず、政府中枢への情報伝達は遅く不完全なものなので、外圧に頼る傾向があると述べ、橋本政権の失政を弁護している。
これは不適切である。縦割り行政からの情報に頼り、行政府間のバランスを計っているからこそ、情報が歪み、決定が遅れるのであって、これは政官業の癒着に基づく自民党政権の特色である。これは厳しく批判し、改革すべき点であって、アメリカ人に弁護してもらうような話ではない。
またベルトは、低金利、規制緩和、財政刺激による景気回復と円安、財政再建の矛盾、不良債権早期処理と倒産や失業発生の矛盾などを指摘し、日本が直面する問題の難しさを理解すべきだとしている。
しかし、このような相互に矛盾する難問が一斉に噴出しているのは、自社さ連立政権が今日までの4年間、不良債権早期処理や規制緩和などの課題に真剣に取り組まず、問題を先送りして来た結果である。これもアメリカ人に同情してもらう必要などはなく、最近4年間の自社さ連立政権が政策決定よりも政権維持に汲々としてきた事こそが問題なのである。

【日本は何を為すべきか】
最後に7月14日の上院財政委員会において、ウィリアム・シードマン元整理信託公社総裁、ロジャー・クバリッチ投資アドバイザー、ロバート・フェルドマン・スタンレー証券主任エコノミスト、深尾慶大教授の4人が「日本は何を為すべきか」について証言した内容が紹介された。
シードマンの即時利上げ論や日本への専門家チーム派遣論については、善意のアメリカ人の発言ではあるが、前者は不適切、後者はおせっかいと言うほかはない。
ショック療法には反対で時間をかけて日本を支援させよというグバリッチの発言は、好意に満ちた証言として感謝はするが、減税、規制緩和、不良債権処理など、今やショック療法が必要な分野もあるので、やや甘い。
フェルドマンは、米国議会が自民党だけではなく、色々な野党にも共感と支持を表明すべきだと証言しているのは、変り始めた日本の政治の米国に対するインプリケーションを米国民に伝える貴重な発言である。
最後に深尾教授は、消費税を直ちに5%からゼロ%に下げ、その後6%に達するまで毎年2%づつ引上げて消費を刺激させようというユニークな提案を行なっている。深尾教授は景気対策を急がなければ、金融パニックが発生するという切迫した危機感を持っているようだ。
もし彼の認識が正しいとすれば、来年1月の通常国会に減税法案と第2次補正予算を出すとして、この臨時国会には景気対策を何一つ出さぬ小渕内閣は、間違いなく金融パニックに直面することになる。
それならば、いま直ちに解散総選挙を実施して非自民の野党連立内閣を成立させ、直ちに大型減税に取り組むのが日本再建への近道ということになるのだが。