参議院選挙結果の評価と今後の展望 (98.7.17)
【日本の議会制民主主義が健全に機能】
過去2年半の橋本自民党内閣の経済失政に対し、今回の参議院選挙で国民の厳しい審判が下ったことは、日本の議会制民主主義が健全に機能していることを示す証左である。投票率の低下、自民党圧勝と言う事前のマスコミ予測が世界中に流れ、日本は本当の民主主義国家なのか、国中が政官業癒着の談合国家ではないのか、という疑問が国際的に生まれていた。
私自身、このホームページのWhat's New欄「日本の政治家はもっと国際会議に出よ」で報告した国際会議に出席し、同英語版“Japans Economy today”のような意見を述べ、その結論にあるように「今後の日本の政治と経済戦略は、参院選の結果次第だ」と述べたところ、その後のレセプションの席上などで、「参院選は自民党圧勝ではないのか。そうだとすれば、
政治も経済戦略も変わらないのではないか」と言う質問を何回も受けた。私はその度に、「橋本自民党内閣の失政に怒った無党派層が動けば、結果は変わる」と答えていた。その通りになって、日本の民主主義に対する信頼が、国際的にある程度回復したことが、今回の参議院選挙の最大の成果であったと言えよう。
【国際的な大反響は私にも】
国際的な反応は早い。外国のジャーナリストの私に対する取材インタビューがどんどん入っているほか、15日(水)にはロイター通信社が私とのインタビューをTV撮りし、国際的に流した。
彼らは、このホームページをよく見ており、番組の始めに私を紹介する際、「ドクター鈴木は早くも昨年4月に、橋本首相の6つの改革は、苦痛を吸収するマクロ経済回復の受け皿を用意していないので、失敗するだろうと予言していた」「彼は橋本政権が続く限り円安は収まらないが、日本の経済危機はいずれ橋本首相を引退に追い込み、次の政権は程度差はあれ積極財政を採らざるを得ないので、そこから先数年間は円高傾向になるだろうと予言している」と述べ、「さて、今どう思っていますか?」とインタビューに入った。
この2つの紹介の言葉は、このホームページの英語版のHashimotos six reforms will fail(97年4月)と“The Yen; Is Japan or China The Greater
Priority ”(The International Econom
y,98年7−8月号原稿)の2つを彼等が注目していたことを示している。
【自由党の比例区5議席は日本新党を上回る】
自民党の予想外の惨敗、民主党の予想を上回る躍進、共産党の予想通りの倍増、社民・さきがけの予想通りの衰亡、は既に多くの人が認めるところであるが、残る公明と自由党の結果はどう評価すべきか。
公明は、比例区で改選前の7議席を維持したが、選挙区では改選前の議席を2議席失って2議席となり、合計2議席減の9議席となった。しかし、創価学会をバックに単独で戦って、比例区でこれまで最高の765万票を得たことに自信を深めている。また13の非改選議席と合わせると22議席となり、これが自民の102議席(自民系無所属を合わせると105議席)と合わせると過半数の126議席を1超えるので、キャスティング・ボードを握った形となった。
自由党は選挙区(改選前3議席)では1議席しか得られなかったが、比例区(改選前2議席)では5議席を得て、合計で改選前を1議席上回る6議席となった。
自民、民主、共産、公明、社民は、いずれも業界、労組、創価学会などの基礎的組織票を持っているのに対し、自由党はまったく支持組織のない国民政党である。その自由党が、比例区で組織政党の社民党の430万票を大きく上回る515万票を獲得した。その結果、風が吹いた時の日本新党の4議席を上回る5議席を得たことの意味は大きい。
正しい政策を訴えていけば、特定の支持組織を持たなくても、この程度議席が得られたと言うことである。国民には見る目がある。引き続き正しい政策を訴えていけば、支持票はもっと増えるに違いないだろう。
【新首相がどのような野党協力を呼びかけるか】
以上の結果、自由、民主、共産、公明は選挙結果によってそれぞれの路線に自信を深め、今落ち着いて自民党の出方を見つめている。
自民党は、橋本首相の政策路線を継承すると言う山崎グループは論外として、次期総裁に名乗りをあげた小渕、梶山(そして多分小泉)の各氏は、程度の差こそあれ橋本路線からの転換を図るに違いない。
それが自由党の体系的戦略である「日本再興のシナリオ」と基本線で一致していれば、自由党は危機突破、日本再興のため、小異を残して大同につく姿勢を採るであろう。しかしその場合でも、その内閣が自民党内の守旧派の抵抗で立往生すれば、衆議院の解散・総選挙である。
他方、戦略転換とは名ばかりで、基本的な考え方が違っていれば、自由党は「日本再興のシナリオ」を掲げ、同じ考え方を持つ野党との共闘を強めることになるであろう。そして早期の衆議院解散、総選挙を目指す。
すべては、自民党の次期総裁、次期首相の経済戦略の内容による。それが明確になるのは、21日(火)の総裁立候補受付の際の政策発表と24日(金)の選挙結果の判明、更にはその後の組閣の方針などによる。
しかし、参議院での過半数を21議席も下回っている以上、次期自民党内閣は野党の協力なしには法案の成立を図れない。どのような形にせよ、新首相、新内閣は野党に協力を呼びかけることになる。その時の政策内容と形式が、今後の政界の流れを決めることになろう。