協調介入は時間稼ぎに過ぎない (1998.6.22)

【今回の介入はサプライズであるが故に効いた】
1ドル=145円に達した円安相場は、6月17日(水)の日米協調介入によって、一挙に10円程度円高となり、135円を中心に5円程の値幅でナーバス(神経質)で荒っぽい動きをしている。またこの円高に伴い、日経平均で14千円台にいた日本の株価も、18日には15千円台に戻り、アジアの株価も一斉に反発した。
一般に市場介入が成功するのは、2つの場合にかぎられる。1つは介入が「サプライズ(驚きをもって迎えられる)」である場合、もう1つは市場動向に沿って、後ろからダメ押しするような場合である。
今回の場合は、予想もしていなかったという点でまったくの「サプライズ」であり、与件の急変に合わせて慌てて方針転換した市場参加者が大半であった為、相場は大きく動いたのである。

【人為的な介入相場は安定しない】
では何の与件が急変したのか。それはルービン財務長官が、「日本が内需拡大や不良債権処理に本気で取組まない限り、円高には転換しないだろう」と何度も述べていたので、人為的な円高転換、すなわち円買いドル売りの日米協調介入に米国政府は反対だと市場では考えられていた。従って市場参加者は、円ドル相場の先行きを考える際の与件の中に、急激な円安には日米協調介入が入り得るという可能性を全く考慮に入れていなかった。
ところが、突然の協調介入で、この与件が間違いであることに気付き、「行き過ぎた円安には協調介入が入る」という新しい与件の下で、相場の先行きを考える態度に急変したのである。
しかし、この新しい与件の下で実現する相場がいくらであるかは、市場参加者によって見方がまちまちである。つまり、人為的な介入相場は、人為的であるが故に当分安定しないということだ。

【米国は火の粉を避ける為に協調介入に合意】
ルービン財務長官は、何故態度を急変させたのか。
日本政府は、橋本総理や榊原財務官がクリントン大統領やサマーズ財務副長官を説得したからだと得意げに語っているが、それは極めて表面的な見方に過ぎない。何故なら、米国政府の側に、協調介入に転換する理由が無ければ、決してイエスとは言わないからだ。
真の理由は、このホームページの6月9日付What's New『超円安の背後に戦略的円安論』に書いたように、円安を容認しているうちに145〜150円になると、遂には人民元の切り下げ、アジア金融情勢の一層の混乱、米国を含む世界経済への悪影響という一連のカタストロフィー(破局)シナリオがありうることに、米国自身が不安を感じ始めたからである。つまり円安相場は145円を超え、このカタストロフィーが起こり得る危険水域に入ってきたからである。

【米国の要求する代償は恒久減税と不良債権早期処理】
しかしその事は、米国政府が日本に対して折れたということでは、決してない。ルービン財務長官が繰り返し述べていたこと、すなわち「抜本的な内需拡大策と不良債権処理策を講じない限り円高には転換しない」という認識には、少しも変化はない。
それなのに人為的協調介入に踏み切ったのは、円安の行過ぎが世界的なカタストロフィーを起こし、米国自らが火の粉をかぶるのを防ぐ為である。従って、火の粉の元である日本の内需不足と不良債権に対しては、益々苦々しく思っているに違いない。
サマーズ財務副長官が、6月20日(土)のG7とアジア諸国の蔵相・中央銀行総裁代理会議に先駆けて、早めに来日したのは、それを日本政府にはっきり伝える為であった。
その証拠に、代理会議の共同声明では、日本の経済・金融システムの立て直しと再活性化が急務であること、不良債権早期処理を含む経済対策を急ぎ、税制改革に取組む日本の決意表明を歓迎すること、が述べられている。これは米国が協調介入の代償として、これらを強く要求し、日本が呑んだからに他ならない。

【参院選で経済失政批判票が増えないと再び円安】
しかし逆に言うと、橋本自民党政権が、これまでと同様、恒久減税の即時実施を拒否し、また不良債権早期処理のスキームが遅れたり、おざなりであったりすると、米国政府は約束が違うと怒り出す可能性がある。そのような怒りをルービン長官などが不満の形で口にすると、それが刺激となって再び円安に向かって相場が動き出すであろう。その場合市場は、協調介入の合意が崩れたと見るからである。
従って今後の相場は、実際に政府・自民党がどのような対策を打ち出し、米国がそれにどう反応するかについての、市場の受け止め方に依存している。
私は橋本自民党政権に、抜本的な不良債権処理策を打ち出すことが出来るかどうか、疑わしいと思う。また恒久減税(財革法の廃止が必要)の即時実施の意思は、全く無いのではないかと思う。従って、円相場はまだ荒れるし、方向は再び円安であると見る。
政策協定を中心として結びつく超党派の実力者・適任者からなる救国政権が、参院選後に出来ないと、日本経済も円も危ないと思う。その鍵を握るのは、参院選の結果、経済失政と経済危機に対する国民の批判票が、目に見える形で出るかどうか、である。
いまの政権が続く限り、協調介入は単なる時間稼ぎに終わり、再び振り出しに戻って事態は全く改善されないであろう。