金融改革の徹底を −そのためにも経済再建最優先− (1998.5.7)

連休明けの5月6日(水)に衆議院大蔵委員会が開かれ、松永大蔵大臣出席の下、金融ビッグ・バン関連4法案の質疑が行われた。私は自由党を代表し、約2時間の質疑を行った。そのポイントをまとめると以下の通り。

【金融ビッグ・バンの2つの問題点】
日本の金融自由化は他の先進諸国に較べて遅れている。特に業務分野規制(銀行業、証券業、保険業などの兼業を禁止する垣根)と金融新商品開発規制の撤廃・緩和が決定的に遅れたため、世界に占める日本の金融資本市場や金融システムのシェアは低下を続け、金融空洞化が進んでいる。
今回の金融システム4法案は、主として業務分野規制の緩和を進めようとするものであり、遅きに失したとはいえ、その方向性は評価できる。
しかし、問題が2つある。
第1は、先進国の標準(グローバル・スタンダード)から見て、規制緩和が不徹底であり、この4法案が成立してもまだ世界の趨勢に対して遅れをとり、金融空洞化が止まらない恐れがある。業務分野規制の廃止をもっと徹底すべきである。
第2は、金融ビッグ・バンに限らず、およそ構造改革というものは苦痛を伴う。
一方に規制緩和を活かして発展する企業や部門があれば、他方に規制緩和に伴う競争激化で衰退する企業や部門もある。従って発展部門と衰退部門を合計したマクロ経済全体が順調に拡大を続け、衰退部門から吐き出される失業者を経済内部で吸収できなければ、改革が経済危機を激化し、最後には改革自体が立往生する恐れがある。現状は既に経済危機であり、規制緩和を徹底して金融ビッグ・バンを一層推進するためのマクロ経済的条件は整っていない。

【保険業の規制緩和を特別扱いすべきではない】
まず、第1の問題点を敷衍しよう。
欧州ではバンク(銀行)とアシュアランス(保険)が融合したバンカシュアランスと呼ばれる金融サービス業が発展しており、米国でも、先に発展されたトラベラーズとシティとの合併のように、銀行、証券、保険を傘下に持つ一大金融コングロマリットが形成されている。
ところが今回の金融4法案では、銀行が保険業に参入できる時期を「平成13年度末までの政令で定める日」としており、保険会社が銀行業に参入する場合を含め、他の業態間の相互参入が平成12年度末までに自由化されるとしているのに較べて、遅くなっている。
その上、銀行が参入しうる保険商品は「住宅ローン関連の(担保として設定した)長期火災保険と信用生命保険に限る」という制限が付される予定である。
これでは、日本の金融サービス業が欧州のバンカシェランス業や米国の金融コングロマリットと対等に競争することは不可能であり、日本の金融空洞化は更に進むであろう。
保険業に限って業務分野規制の緩和を遅らせる理由は、3年前まで、大蔵省の行政介入でがんじがらめにされていたため、急に自由化されても、自主的に銀行や証券会社と競争する能力が無いと保険業界が訴え、大蔵当局もそのように判断しているためである。しかしそれは、行政当局としての大蔵省の過去の誤り(過剰介入行政)の結果に過ぎない。それを理由に規制緩和を遅らせ、日本の金融空洞化を放置することは許されない。
保険業の過保護を廃止し、他業態と同じタイミングで、条件を付けない相互参入を実現すべきである。

【保険会社の会計処理を改善せよ】
また法案によれば、保険会社に平成10年度以降ソルベンシー・マージン基準が導入され、この数値を公表することとなっている。しかし、そもそも生命保険会
社は相互会社であり、株式会社におけるようなコーポレート・ガバナンスが働かず、ソルベンシー・マージンの基礎となっている経理処理が実態を正確に反映したものであるかどうか、はなはだ心許ない。
この法案では、公的資金の導入などにより、経営に問題のある保険会社の処理を今後4年間で(平成13年度までに)進めようとしている。しかし、こうした処理を進めて行く基準として、実態を反映してないままのソルベンシー・マージンを用いるのであれば問題が起きる。不良債権の額や自己資本比率が実態を反映していないまま処理を進めたため、大混乱を起こしている銀行行政の失敗の二の舞いになる。
保険会社の不良資産額などの会計処理が実態を反映するものとなるための仕組み(自己査定、監査人による監査の義務付け等)を、併せ導入する必要がある。

【銀行と一般事業会社を区別すべきではない】
グローバル・スタンダードから見た業務分野規制緩和の不徹底は、銀行と一般事業会社の間についてもみられる。
法案によれば、銀行が持株会社などの形態を利用して、傘下に一般事業会社を兼営することは禁止されているが、逆に一般事業会社が同様の形で銀行業を兼営することについては、何の禁止規定も監督規定も無い。
これは、銀行の資金調達力が一般事業会社に較べて抜群に大きい時代の古い発想である。つまり独占禁止の立場から、銀行の一般事業会社支配は厳しく禁じなければならないが、一般事業会社の銀行支配は資金調達力の差から見てあり得ないと考えているのである。
しかし、現代のグローバル化した金融資本市場においては、市場の信頼を勝ち得た企業でさえあれば、一般事業会社であっても、銀行に優るとも劣らない資金調達力を持っている。現代は間接金融優位ではなく、直接金融優位の時代である。
直接金融の場である各国の市場はグローバルに結びつき、間接金融の担い手である銀行の資金量をはるかに上回る資金供給力を持っているのである。
銀行と一般事業会社の相互乗入れは、双方向共に同じように自由化すべきであり、同一の規制、監督の下に置くべきである。そうしないと、世界の趨勢に立後れ、日本の銀行は引続き不利な立場に立たされる。

【改革に必要なマクロ経済の受け皿を】
次に第2の問題点、つまり構造改革の苦痛を吸収するマクロ経済の受け皿が現在無いことについては、誰の目にも明らかである。鉱工業生産は急減しており、失業率は3.9%に達し、4%台乗せは時間の問題である。このような時に、金融機関の整理、失業の発生が不可避となるビッグ・バンの推進などできる筈が無い。
事業規模16兆円強と称する政府・自民党の経済対策も、前年度のマイナス成長に続く本年度のマイナス成長持続を、かろうじてプラスのゼロ%台成長に戻す程度の効果しかない。「大不況」が「不況」に変る程度だ。詳しくはこのホームページの4月27日付What's New欄「橋本政権の総合経済対策を評定す
る」を参照されたい。
10兆円の恒久減税と不良債権の早期処理によって経済を実力相応の成長軌道に戻さない限り、金融面の規制緩和の徹底もできず、金融空洞化は止まらないであろう。