反対し続けた減税を今ごろ提案する橋本政権の政治的責任(97.12.17)



【橋本政権に対して怒りを】
橋本政権が、来年1月に国会に提出する本年度の補正予算の中で、2兆円の特別 所得減税を復活すると発表した。景気後退の様相が強まり、金融危機が深刻化し ているにもかかわらず、これまで橋本政権は金融システム対策しか発表せず、実 効ある景気対策を何も追加していなかった。このため、国民の不安は強まり、株 価も15千円台に低迷したままであった。
そこに今回の2兆円減税の発表があったため、国民は喜び、株価も16千円台を 回復した。これは当然の動きである。
しかし、もし日本国民がこの決定を単純に歓迎し、橋本総理の決断を評価すると すれば、日本の政治民度の低さ、民主政治の未熟ぶりを自ら世界に示すようなも のである。
少なくとも次の3点で、日本国民は橋本政権のこの決意に対して、怒りを表すべ きである。

【年初に反対した減税を今頃出す鉄面皮】
第1に、本年度の2兆円特別減税の継続を年初から決めていれば、日本経済はこ れ程までに落込まず、株価や地価もここまでは下がらず、金融機関の経営はこん なに悪化せず、拓銀、山一の経営破綻を始めとする金融危機は発生しなかったで あろう。97年初の通常国会で、新進党と太陽党が提出した2兆円特別減税の継 続法案を審議未了に追い込んだ政府・自民党は、1年後の98年初の通常国会 に、同じ2兆円特別減税の復活法案をどのツラ下げて提出しようというのか。
これは、同じ97年度の特別減税を、年度初めに決めず、年度末に決めたという 時間的遅れの問題だけでは済まされない。年初の継続決定と年度末の再実施決定 では、経済に対するインパクトが決定的に違う。現にその間に、日本経済の危機 が深まり、金融パニックが起こりかかっているではないか。自動車を継続して走 らせるのと、一旦止めた後に再発進するのとでは、ガソリン消費量が決定的に違 うように、この政策決定の遅れがもたらした経済的ロスは莫大なものである。
国民は橋本政権の2兆円特別減税実施の決定を評価する前に、橋本政権の判断ミ スに基づく政策の遅れと、それがもたらした莫大な経済的ロスの責任を、政治的 に追及すべきであろう。

【恒久減税でなければ効果は少ない】
第2に、政府・自民党は、本年度の特別減税復活を決めただけで、来年度以降に ついては何も言っていない。特別減税というのは、本来臨時の一時的措置であっ て、いずれ廃止する措置である。したがって、本年度について減税を復活して も、来年度以降いつかは廃止して増税になる運命にある。とすれば、これは「増 税予告付」の2兆円減税である。
その上、財政構造改革法案が成立しているので、来年度の予算は公共投資の7% 削減を中心に一般歳出はマイナスになる。本年度に続いて、デフレ予算が強行さ れようとしているのだ。
このように増税予告付で、しかも歳出削減のデフレ予算が見えている時に、2兆 円の減税を実施したらどうなるであろうか。国民は将来の増税やデフレに備えて 減税分を貯蓄に回すであろう。従って、所得減税にもかかわらず消費はあまり増 えず、景気刺激効果は極めて限定されるに違いない。
国民は特別減税の復活に喜んではいられない。来年度以降、この2兆円減税を臨 時の特別減税ではなく、恒久的な制度減税に切替えることを要求すべきである。 それが実現しない限り、この2兆円減税は効果の少ないばらまき型景気対策に終 わるであろう。

【橋本内閣は失政を認めて退陣せよ】
最後に、2兆円特別減税の再実施は、これまでの橋本内閣と自民党が主張し、実 施してきた経済戦略の質的転換を意味する。なぜなら、政府・自民党は、財政再 建を最優先し、財政赤字拡大を伴う景気刺激は一切採らないと言明し続けてき たからだ。またその現われが、毎年赤字国債と財政赤字全体を削減することを義 務付けた財政構造改革法案の国会提出、可決である。
今回の2兆円特別減税復活の財源は赤字国債である。形式的には、財政構造改革 法案の実施は来年度からなので、本年度の補正予算による赤字国債増加は法に抵 触しない。しかし、実質的には、本年度の補正予算編成の政策姿勢をも縛るもの だということを、橋本首相や三塚蔵相は10〜12月の臨時国会で何回も答弁し た。
また、首相と蔵相は、財政赤字拡大を伴う景気対策は絶対に採らないと述べる度 に、新進党の議員から「もし赤字拡大を伴う景気刺激策を採らざるを得なくなっ たら、判断のミス、政策のミスを認めて退陣せよ」と何回も釘をさされている。 今回の2兆円特別減税の復活は、間違いなく政府・自民党の政策の戦略的転換で あり、これまでの判断とそれに基づく政策の誤りを認めたことを意味する。
その責任を取って橋本政権が退陣しないならば、日本の議院内閣制は民主的制度 として機能していないことを内外に示すことになる。
日本国民は、2兆円特別減税の復活を喜ぶ前に、橋本政権の退陣を迫らなけれ ば、政治的民度の低さと民主主義の未熟さを国際的に笑われるのではないか。