政府・自民党の公的資金導入論議を正す (97.12.01)
11月28日(金)午後の衆議院大蔵委員会において、金融危機に関する集中審
議が行われ、私は新進党を代表して、三塚蔵相と松下日銀総裁に対し、1時間の
質疑を行った。質疑といっても、官僚が用意した答弁書を読み上げるだけの三塚
蔵相から、政府が検討している金融危機対策の具体的内容を聞ける筈もないの
で、私は政府のやるべき事とやってはならないことを一方的に述べ、見解を尋ね
る形を取った。以下はその要旨である。
【橋本首相、三塚蔵相は辞任すべし】
今回の拓銀や山一の経営破綻は、大銀行は潰さないと繰り返し述べてきた橋本政
権、中でも三塚蔵相の公約違反であるが、このような事態は、本年2月10日の
予算委員会において既に私が指摘していたことで、十分に予見できた。その時私
は、9兆円の国民負担増加と公共投資削減を含む本年度デフレ予算を強行すれ
ば、来年4月以降の日本経済はゼロ成長に陥り、地価、株価の下落、倒産多発な
どで金融機関の破綻は必ず増えるので、現在のセイフティ・ネット(公的資金は
投入せず、預貯金は全額保証、大銀行は潰さない)は破れてしまうだろう、と指
摘した。その上で、そう思わないと述べた橋本首相、三塚蔵相に対して「何かあ
ったら」「結果責任を取れ」「この約束を憶えておけ」と述べたことが、公式の
国会議事録に残っている。憲政の常道として、本来ならば、この一事をもってし
ても橋本首相、三塚蔵相は辞任すべきであることを、まず委員会で言明した。三
塚蔵相は黙して語らなかった。
更にこの金融危機対策として、@財政構造改革法案に違反するような財政赤字拡
大を伴う景気対策を打たざるを得ない場合、A金融機関の競争激化、破綻を誘発
する明年4月の改正外為法の施工を延期せざるを得ない場合、B金融機関の貸し
渋りを誘発している明年4月の早期是正措置の実施を延期せざるを得ない場合に
は、@〜Bとも公約違反の失政であるから、責任をとって辞任すべしと述べ、こ
れも公式の国会議事録にとどめ、将来の政府の責任追求の布石とした。
【破綻した経営は救済せず整理せよ】
次に、金融機関が破綻した場合、その経営を救済するか整理するか、整理するこ
ととした場合、解散するか健全な部分の資産・負債を他の健全な「受け皿銀行」
に継承させるか、という2段階の選択肢がある。政府はこれまで、第1段階の選
択肢について、@地域や分野に支障をきたす場合、A大銀行の場合、B決済シス
テムが混乱する場合の@〜Bのケースでは、経営を救済するとしてきた。現在国
会に提出されている預金保険法改正案は、まさに@のケースである。
ところが、Aのケースとして、最後まで政府・大蔵省が経営救済を画策していた
拓銀や山一という大金融機関が、市場の貸出拒否にあって破綻した。しかし、
「最後の貸し手」としての日銀の素早い貸出によって、Bの決済システムの混乱
は避けることが出来た。この事はAやBの理由で破綻金融機関の経営を救済する
必要がないことが説明された。ましてや、もっと小さい金融機関の破綻につい
て、@の理由で経営を救済しようとする預金保険法改正案は、根拠を失った。
破綻金融機関の経営者については、そのズサンな経営について、民事上、刑事
上、道義上の責任を追求され、経営は救済ではなく整理されるのが当然である。
そうでなければ、自己責任の原則で破綻責任を取っている他の産業との間で極め
て不公平であり、市場経済の基本原則に反する。
2段階目の選択肢については、「受け皿銀行」を見つけて健全な部分を継承させ
た方が、社会的コストが少なくてすむので、解散より継承の方が良い。しかし
「受け皿銀行」として誰も名乗りをあげない場合は、一見健全に見える資産・負
債や営業権の中に、何か問題があるためであるから、経営は解散すべきである。
【政府・自民党案の問題点】
この原則に立つと、政府・自民党の中で検討中と伝えられる対策の中に、問題の
多い案が少なくない。
第1に、財投資金や日銀特融を資金源として、金融機関が発行する優先株や劣後
債を購入し、自己資本の充実を援けるという案は、不公平な経営救済であり、行
うべきではない。優先株や劣後債は市場に向って発行すべきであり、市場で拒否
されるほどの破綻金融機関のそれらを公的資金で購入するのは、市場原理に反す
る経営救済である。このような事をすれば「モラルハザード」が発生し、経営の
自己規律が一層緩むことになる。
第2に、預金保険機構の基金が不足し、次々と出てくる破綻金融機関の預金支払
いを保障できないので、政府保証で預金保険機構に借入させるという案も伝えら
れている。これは、公的資金導入の予約であるが、財政構造改革法案に抵触する
財政赤字拡大を回避する姑息な手段である。公的資金を投入しないという公約違
反をごまかす不透明なやり方である。
公的資金を投入しないという公約が破れたことを率直に認め、その責任を取って
橋本内閣が退陣した上で、新しい内閣が公的資金導入の必要性を国民に訴え、新
内閣の責任で実施すべきである。