山一證券の破綻は自社さ政権の政策失敗による(97.11.25)



【大蔵省の裁量的金融行政が市場に敗れた】
 都市銀行の1つ、北海道拓殖銀行の経営破綻、整理に続いて、今度は4大証券の 1つ、山一證券が11月24日(月)に自主廃業を発表した。
 自社さ連立政権と大蔵省は、これまで、拓銀や山一のような大きな金融機関が破 綻すると、@金融システム全体に影響が及ぶし、A整理・廃業となればその地域 や業界に大きな支障が起こるので絶対につぶさないと言い続けてきた。いわゆる “Too Big To Fail”(大きすぎて潰せない)である。
 このため、政府・大蔵省は拓銀についても山一についても、最後の瞬間まで経営 を救済するつもりで検査し、あるいは報告を受け、救済方法を相談していたので ある。
 ところが2つのケースとも、短期金融市場における貸し手の金融機関が、これ以 上拓銀や山一に貸し続けるのは回収不能の危険性があると自主的に判断し、資金 を引上げ、新規貸付を拒否した。その結果、拓銀も山一も資金繰りがつかなくな り、整理や廃業を決意したのである。
 これは護送船団方式の延長線上にある「救済型」の裁量的金融行政が、リスクを 回避するという市場の自己責任原則によって拒絶され、すごすごと引き下ったの である。

【預金保険法改正案は根拠を失った】
 その結果、2つのことが明らかになった。
 第1に、政府・大蔵省はこれまで、大きな金融機関が倒れると、金融システム全 体が危機に陥り、国民生活に悪影響が及ぶので、大きな金融機関は救済する必要 があるといっていたが、その根拠が失われた。都銀の1つである拓銀や4大証券 の1つである山一が潰れても、日銀特融によって支払を保証し、連鎖的な支払不 能を防げば、金融システムに動揺が発生しないことが今回証明された。“Too Big To Fail”の根拠の1つが失われたのである。
 第2に、政府・大蔵省は大きな金融機関が潰れると、その地域やその産業に支障 が起きるので救済する必要があるといってきた。しかし、北海道最大の拓銀が潰 れても、営業を北洋銀行が継承すれば地域への悪影響は極小化できるし、4大証 券の1つが廃業しても証券界に大穴が開くわけではない。地域や分野への支障を 理由とする介入型行政の持続と大金融機関の救済方針は、その根拠を失った。
 “Too Big To Fail”は、ここでもその必要性がないことが明ら かになった。
 そうなると第3に、現在国会に提出されている預金保険法改正案は、その理由付 けを失った。なぜならこの法案は、大阪の福徳銀行と難波銀行のような小さな銀 行の場合について、経営破綻を理由に整理をすると、金融システムや地域への影 響が大きいので、預金保険機構が不良債権を買い取った上、両行を合併存続させ るという経営救済策を用意するものだからである。しかし、拓銀や山一でも整理 や廃業をする時代に、どうしてこのような小さな破綻金融機関を金融システムや 地域への支障を理由に救済するのか。まったく矛盾している。

【自社さ連立政権は責任を取って退陣せよ】
 山一や拓銀などの金融機関大型倒産には、この3年間政権を担当してきた自社さ 連立政権が、重大な責任を負っている。
 第1に、9兆円の国民負担増加と公共投資削減を含む本年度のデフレ予算(負の ケインズ政策)によって、政策的に不況を作り出したことである。本格的な景気 回復を見ないままに政策不況に陥ったのであるから、企業倒産が増えるのは当然 であり、山一や拓銀の再建が挫折したのも、このような経済環境の悪化が1つの 原因である。
 第2に、不良債権を早期に処理し、金融システムの健全性を回復する政策努力を 一切行ってこなかったことである。この無策が金融危機と株価下落の悪循環を生 み、経済に資産デフレの圧力を一段と加え、山一や拓銀を倒産させた。
 この無策は、自社さ連立政権が、住専処理の際、預金を取り扱っていない住専に 国民の血税6850億円を投入し、国民の厳しい非難を浴びた時から始まった。 政府は非難を和らげるため、今後は信用組合の破綻を除き、一切公的資金を投入 しないとか、預貯金の元本支払いは2001年3月まで保証するとか、大銀行は 潰さないというように、両立不可能な公約を行った。
 本来ならば、預貯金の元本を保証すると公約した以上、預貯金の保険で足りない 程多額のの不良債権を抱えて金融機関が破綻した場合は、破綻金融機関の刑法 上、民法上、道義上の経営責任を追求した上で、預貯金の支払資金不足分には公 的資金を投入するという枠組を作らなければならなかったのである。それをしな いで無策のまま過ごした結果が、今日の山一や拓銀の大型金融機関の破綻と公約 の破綻である。
 今になって政府は、公的資金の投入検討を口にし始めたが、それならば、@預貯 金の支払資金不足分の補填ではない住専処理に6850億円の公的資金を投入し た責任、A今日まで無策で過ごしてきた責任、の2つを認めて、まず橋本内閣が 退陣し、自社さ以外の政党に政権を譲るべきである。その上で、自分の責任で危 機に陥った日本経済を救う為、少数政権の金融・経済再建策に協力すべきであ る。