政府の景気対策は落第(97.11.19)



【構造対策と景気対策は違う 】
 政府が11月17日(月)に発表した景気対策については、識者や新聞のコメン トは揃って批判的である。それもその筈で、既に決まっている規制緩和などの構 造対策を、繰り上げ実施するという内容ばかりだからだ。
 第一に構造対策は、景気とは無関係に出来るだけ早く実施すべきものである。そ の気になればもっと早く実施できるものが、このように沢山あったのかと今更の ように驚かされるのが今回の内容だ。こんなものは、これまでの怠慢の証拠には なっても、手柄にはならない。
 第二に構造対策は、短期的には景気にマイナスの面もある。規制緩和で生まれた 新しいビジネス・チャンスを活かして伸びる部門がある反面、規制に守られた既 得権益を失い、競争に敗れて衰退する部門もあるからだ。このような構造変化 は、中期的に見れば日本経済の効率を高め、成長率を引き上げる。しかし、短期 的には、衰退部門の発生が景気の足を引っ張ることもある。それにも拘らず、発 展部門の方だけを見て景気刺激効果があるというのは、まやかしである。

【市場の失望が危機を深める】
 市場も今回の景気対策には失望したようだ。
 拓銀の経営破綻(11月18日付本欄参照)に伴って、公的資金に道が開けると 予想した株式市場は、不良債権処理の進展を期待して11月17日、18日の2 日間は日経平均で約1,600円程値を上げ、一時は17千円台に届いたが、1 9日になって橋本首相が公的資金の投入を否定したと伝えられると900円程値 を下げ、16千円台を割り込んでしまった。
 このような市場の反応は、市場が政府の景気対策をまったく評価せず、ただ公的 資金投入の思惑だけで相場が乱高下したということを物語っている。
 景気悪化→株価下落→金融危機→景気悪化、という悪循環の条件は、依然として 払拭されていない。経済危機は引続き深刻である。

【財政再建と景気対策の同時進行は可能】
 政府・与党は「財政赤字と景気悪化という2つの病気があるが、この2つの病気 を同時に治すことは出来ない。従って、2つの病気を比較した時、財政赤字の方 が深刻な状態であるから、こちらを先に治す」(山崎政調会長)という論理のも とに財政出動を拒否している。景気の多少の悪化については我慢が必要という考 えである。この欄で何回も主張しているようにこの考えは2つの意味で間違って いる。
 第一は、景気が本格的に後退すれば(極めてこの可能性が高まっている)税収が 減り、財政の再建は失敗する。また、世界経済に対し大きな影響力を持ち、役割 を担っている日本経済が「一国隠居主義」ともいうべき態度をとって、不況を我 慢していれば、日本発の世界同時不況にもなりかねない。グローバル化されたこ の時代においてこのようなわがままは許されない。
 第二は、財政再建はあくまでも中期的な目標であるから、まず景気対策を打ち、 同時に公共投資などの構造改革を行うことによって、短期的な景気問題という循 環的側面と中期的な財政問題という構造的側面の2つの病根を同時に撲滅して、 現在の不況から成長軌道に回復できるという特効薬があることに気付いていな い。この点について、私は国会の場で何度も橋本首相、三塚蔵相に「毎年毎年の 赤字削減ではなく、あくまでも財政再建は中期的目標である」と主張してきた。 これを政府は無視し、一般歳出削減法案ともいうべき財政構造改革法案を数の力 により、衆議院を通過させ、財政出動を伴う景気対策への道を自ら閉ざそうとし ている。
 今すべきことは、上述した通り減税を中心とした即効性のある景気対策を打つと 同時に、金融システム不安解消のためのセイフティ・ネットをしっかり再構築す ることである。