市場が整理した北海道拓殖銀行 (97.11.18)



【市場が拓銀の資金調達を拒否 】
 都市銀行10行の1つである拓銀(北海道拓殖銀行、本店、札幌)は、業務継続 が困難となったため、解散することを決めた旨、11月17日(月)に発表し た。業務継続が困難となった最大の理由は、コール市場などの短期金融市場にお いて、貸し手が拓銀への貸出を拒否したため、資金調達が出来なくなり、資金繰 りが行き詰まったのである。
 これは行政の指導ではなく、市場が拓銀に経営の整理、解散を迫り、行政が追認 せざるを得なくなったという意味で、画期的な出来事である。
 大蔵省は現在、拓銀を検査中であり、不良債権の額をしっかりつかんだ上で、解 決案を考えようとしていた。その先手を打つように、市場が拓銀に引導を渡した ことになる。債務超過に陥った銀行は、速やかに市場かた退出するという市場原 理を、市場が自らの力で貫徹した訳である。そこには裁量的な行政の入り込む余 地が無かった。

【預金保険機構は資金不足に】
 現行のセイフティ・ネット(決済システムの安全を確保する法的枠組み)の下で は、取扱えず日本銀行の特別融資によって拓銀の資金繰りを可能にし、市場の取 引先、預金者、健全な融資先などの取引関係に支障が生じないようにする。その 上で、預金保険機構が不良債権を買い取り、残りの健全な資産・負債については 北海道内の分を北洋銀行(本店、札幌)が、本州内の分は他の健全な金融機関が 継承する。それによって、日本銀行特別融資の返済と全預金者への元金払い戻し が最終的に可能となる。
 しかし、ここに1つの問題がある。2001年3月(政府が破綻銀行の預貯金払 い戻しを全額保証している期限)まで展望しても、預金保険機構の基金は、1兆 円を超す拓銀の不良債権買取りには足りないことである。したがって、今後発生 するほかの金融機関の破綻についても、不良債権の買取りという資金援助が出来 なくなる。預金保険が機能不全に陥るのだ。
 そうだからと言って、預金保険料率を引き上げて資金を増やそうとすれば、健全 な金融機関の負担が増す一方である。明年4月の為替管理撤廃とビッグバンの進 展で海外金融機関との競争が激しくなることを考えると、これも適切な選択では ない。

【責任は自社さ連立政権にある】
 このような手詰まり状態に陥った最大の責任は、自社さ連立政権にある。 第一に、政策不況を招き(11月14日付の本欄「自社さの3与党と民主党が招 いた政策不況」参照)、倒産多発、地価・株価の下落などで不良債権を増やした ことである。政府は不良債権の整理が進んでいるといっているが、拓銀の例に明 らかなように、その陰で新しい不良債権が政策不況によって作り出されているの だ。
 第二に、破綻した金融機関の経営責任を明らかにする一方、公的資金の投入によ って預貯金の全額支払を保証する枠組みを、今日まで作らなかったことである。 住専処理の際、6850億円の公的資金を使って、預貯金の支払いではなく、農 協経営を救済した自社さ連立政権は、国民の厳しい批判に直面して、今後は信用 組合の破綻に伴う貯金支払資金の不足以外は公的資金を使わないと公約し、それ に基づく金融三法を成立させた。これが今日の預金保険機構の資金不足の原因で ある。
 住専処理の際、新進党が提案した日本版RTC「不良債権処理公社」案が実現し ていれば、このような資金不足は発生しなかったろう。今からでも良いから、早 急に「経営責任追求と表裏の公的資金投入の枠組み」を作るべきである。