橋本総理と私の景気観・政策観の違い (97.11.04)



 11月4日(火)の衆議院予算委員会において、私は新進党を代表し、橋本総 理、三塚蔵相、尾身経企庁長官、及び松下日銀総裁に対し、1時間30分にわた って景気問題の集中質疑をおこなった。
 その結果明らかとなった政府・自民党と私や新進党との認識・見解の相違が浮き 彫りとなった。
 主な点は以下の通り。

【政策不況は年度下期も続く 】
 政府は「足許の景気の弱さは構造的要因によると認識している」と言う。しか し、構造的な不況要因は以前から存在しているのであり、4月以降景気が弱くな ったのは、昨年12月9日の予算委員会以来私や新進党が繰り返し述べていた通 り、97年度デフレ予算のトリプル・パンチ(消費税率引上げ後の民需反動減、 9兆円の国民負担増加、公共投資の落ち込み)という政策が作り出した「景気循 環的不況要因」によるというのが、私や新進党の認識である。
 これに対して政府は、今までは財政出動で景気を下支えしてきたので今まで見え なかったが、不況の原因はあくまでも「構造的要因」であると主張した。
 しかし、仮にそうだとすれば、年度下期には景気回復傾向が見られる筈という政 府の認識は根拠が無く、トリプル・パンチが引き起こした在庫調整は年度下期も 続くというのが、私や新進党の認識である。

【景気を支える2本柱が折れる】
 政府は設備投資と純輸出が支えているので、景気回復の基調は崩れていないとい う認識であるが、私や新進党は年度下期から来年度にかけて設備投資と純輸出は いずれも鈍化してくるので、現在進行中の在庫調整の後、景気後退に陥る可能性 が高いと見る。
 統計を見ても、GDPベースの設備投資の4割を占める中小企業非製造業の設備 投資は、本年度からマイナスに転じることは確実である(日銀短観)。先行指標 の機械受注(民需、除く船舶・電力)の前年比増加率も、昨年10〜12月の1 7.3%増から本年7月は0.3%増、8月は2.7%増に急落している。
純輸出も、今までのテンポで増えていけば対外摩擦の激化、円高リスクの高まり という壁に突き当たる。更に米国や東南アジアの成長鈍化という海外環境の悪化 もある。

【賃金、雇用、企業収益も崩れてきた】
 政府は賃金、雇用、企業収益が伸びていることを強調して、景気回復の基調は続 いていると主張しているが、私や新進党は賃金、雇用、企業収益の伸びはいずれ も鈍化しているので、景気回復の基調も崩れつつあると見る。
 具体的には、実質賃金の前年比は4〜6月以降マイナスとなり、所定外労働や就 業者数の前年比も4〜5月をピークに低下し、9月はほぼ前年水準並みになって しまった。季調済前月比では減少を続けている。「尾身経企庁長官の主張する賃 金の伸びは名目ベースのことであり、物価上昇を考えた実質賃金は既にマイナス になっている」と私が主張した時に尾身経企庁長官が意外そうな顔をして経企庁 の政府委員に聞いていたのは逆に私が意外であった。企業の増収率も(日銀短 観)、前年度の二桁から本年度は5%程度に下がり、中小企業非製造業は減益に 転じた。
 政府の景気見通しは、トレンド及び経済の原則に照らした予想を欠き、希望的観 測が余りにも多すぎる。

【景気刺激と構造改革を同時に実施すべし】
 景気が弱くなっているにも拘らず、財政面から景気刺激策をとらない理由とし て、橋本総理は「従来は財政刺激策をとるあまり、構造対策がなおざりになっ た。これからは財政刺激策は止め、構造対策に集中する。景気対策も法人税改 革、有取税廃止などの構造対策の中で考える」と述べた。
 これに対して私は「構造対策を忘れていたのは政府・自民党だけで、新進党は1 年以上も前から構造対策と景気刺激の両方を主張している。法人税減税や有取税 廃止も、新進党は昨年10月の総選挙以前から主張しており、今年8月に取りま とめた『日本再構築宣言』にも入っている。政府・自民党は、以前は財政刺激、 これからは構造対策と片方づつしか出来ないのか。新進党のかねてからの主張通 り、景気刺激と構造改革を同時に実施した時に始めて改革に成功するのだ」と主 張し、平行線を辿った。