財政構造改革法案は将来にわたって政府の手足を縛る悪法(97.10.22)
【日本経済を中期的に停滞させる悪法 】
10月21日(火)の衆議院財政構造改革特別委員会において、私は総理、蔵
相、経企庁長官の三大臣と討論し、「財政構造改革法が成立、施行されると、2
003年に至るまで、政府の財政刺激策を不可能にするため、今後6年間の日本
経済を中期的に停滞させる危険を冒すことになる」と指摘した。三人の大臣は、
「財政赤字が極めて大きくなってしまったので、毎年縮減せざるを得ない」と答
えるのみで、日本経済を中期的に停滞させる危険性については、一言も反論でき
なかった。
これは将に「角(財政赤字)をためて牛(日本経済)を殺す」たとえの通りであ
る。日本経済(牛)を救うために、この財政構造改革法案は断固つぶすべきだと
いう私の主張に対し、自民党席も一人としてヤジを飛ばして来なかった。恐らく
自民党の代議士の中にも、同じ懸念を持つ人が少なくないのであろう。
【クラウディング・アウトは起こらない】
私は次の順序で討論を進めた。
まずこの法案は、政府に対して、2003年度まで毎年毎年財政赤字を縮減する
ことを義務付ける法案であることを確認した。そのうえで、毎年毎年、単年度主
義的直線的に財政赤字を縮減しなければならない理由として、政府が挙げている
二つの理由を一つづつ反論した。
第一は、財政赤字縮減が中長期的に民間経済を活性化するからという理由であ
る。これは財政赤字が民間投資に回るべき貯蓄を先取りし、民間投資が圧迫され
ること(クラウディング・アウト)がないように、今から財政赤字を縮減すると
いう意味である。
しかし、現在の日本経済にはGDPベースで8%前後のデフレ・ギャップが存在
し、国内で貯蓄が余って海外に流出し、経常黒字が拡大している。2003年ま
での6年間にこのデフレ・ギャップが解消するほどの高成長(平均実質4%以
上)が起きるとは思えず、2003年迄はクラウディング・アウトの心配は無用
である。従って将来のクラウディング・アウトの懸念は、2003年まで毎年一
直線に赤字を削減して行かなければならない理由にはならない。
【後世代へのツケはミスリーディング】
次に、政府は後世にツケを残すのはよくないという理由で、赤字削減を急ぐとし
ている。しかしツケとは何か。政府の債務(公債)と国民の金融資産(公債)が
資産・負債両建てで後世に伝わるため、公債の元利払いのための課税(所得移
転)の手間が後世に伝わるのである。ツケという言葉は、現世代と後世代の間に
貸借関係が発生するかの印象を与え、不適切である。ツケの正体は後世の「手間
ひま」、国債費という所得移転の膨張である。
このような「手間ひま」を後世に残さないための赤字削減は、確かに望ましい
が、削減のスピードは三つの要素に依存する。
@ は後世代が現世代に比べて「手間ひま」を担う力が弱い場合は急いだほうが
よい。少子高齢化を考えると、この観点からは赤字削減を急ぐべしということに
なる。
A は赤字の金利コストである。現在のような超低金利時代には、赤字削減を急
ぐ必要はない。
B は国債費を縮小して一般歳出の余地を広げる場合、一般歳出に無駄が多く、
その便益=公共性が低い場合は急ぐ必要はない。現在はそのケースで、行革によ
る歳出の構造的削減が先であり、赤字=公債費の縮減は急ぐ必要はない。
以上、@〜Bのうち、1対2で、経済を犠牲にしてまで赤字縮減を急ぐ必要はな
いことになる。
このような論旨の展開により、財政赤字削減をすべてに優先させて一直線に実施
すべしという政府の二つの根拠をつぶし、財政構造改革法案の成立を阻むべきだ
という決意を披歴し、委員会の討論を終えた。
2003年までに財政赤字の対GDP比率を3%以下に下げるという中期目標は
必ずしも反対ではない。そこに至る道筋を一直線でなければならないと法律で縛
ることに反対しているのである。