尾身経企庁長官との景気討論 (97.10.13)
10月12日(日)午前10時からのテレビ朝日「サンデープロジェクト」で、
田原総一郎氏司会の下、約40分にわたり経済企画庁長官尾身幸次氏と討論を行
なった。
テーマは『政府対新進“大型減税は日本を救うか”』
【現状の把握が甘い政府】
まず、景気認識から討論が始まった。政府側は消費税引き上げ前の駆込み需要の
反動が長引いていることからくる先行きへの不安がある為、現在は景気回復局面
の中の足踏み状態であるが、20日発表の景気対策で将来の景気に対する信頼が
回復するので下期は景気の足取りが確りする、との趣旨であった。
この現状認識は間違っている。民間シンクタンクは一様に景気の先行きに対し懸
念を表明しており、民間シンクタンク13社の今年度平均成長率予測は0.5
7%(政府見通しは1.9%)である。これは今の景気局面が“政策不況”であ
る事を示していると私は主張した。
要因は3つあり、@消費税引き上げ前の駆け込み需要の反動、A9兆円の国民負
担増、B公共投資の落ち込みである。政府側は現在賃金は年率2〜3%伸びてい
ることを景気回復局面が続いている1つの根拠としたが、今年度9兆円の負担は
国民所得の2.3%に相当する水準で、これでは消費が伸びる余地がない事を私
は主張した。Bについては過去6年間、大規模な公共投資を行なってきた結果、
財政赤字拡大につながったのだから、拡大するわけにはいかないと尾身長官は述
べたが、私はこれは公共投資が悪いのではなく、その中身が無駄だらけだから悪
いのであると指摘した。
【名ばかりな政府の経済対策】
20日に発表予定に景気対策について、尾身長官は3つの柱を説明した。
@経済政策環境を諸外国並みにし(規制の国際標準化)、国籍の無くなりつつあ
る民間企業に日本を選んでもらって、経済活動を活発化させる。たとえば、法人
税、有価証券取引税を引き下げると言う。私は次ように反論した。こうしたこと
は景気対策の次元ではなく、中期的な構造対策だ。また、法人税の最高税率4
9.98%を何%に引き下げるのか、財源は何かもはっきりしない。実は課税ベ
ース拡大に伴う増税の範囲でしか減税をしないつもりで、これでは国際標準化に
は程遠い。
A規制緩和によって民間経済活動を刺激し、ベンチャー企業の育成も図る。規制
緩和については、新進党も当然同調するわけだが、2つ批判をした。まず、景気
対策としては即効性がなく短期的には景気にマイナスの面もあり、今下期に対し
ての景気刺激効果はない。また、上記@と同様、景気対策とは関係なく進めるべ
きで、構造対策である。
B土地流動化策でバブル崩壊後の経済のしこりを取り除く。私の反論は、土地流
動化は大切であるが、景気回復の展望がない限り土地の買い手がなく、どんな対
策も土地流動化の効果は殆どない。
【短期的には財政出動を伴なう景気対策を打つべき】
財政問題に関しては、新進党は所得減税(約2兆円)、法人減税(約4兆円)の
ネット減税を主張しているが、尾身長官は財政構造改革の推進上不可能と言う。
所得減税はしない、法人減税は行なうが課税ベース拡大で差し引きゼロで行なう
と言う。これはネット減税ではないので景気対策としての効果はほとんどない。
また、公共投資について尾身長官は「過去6年間、大規模な公共投資を行なった
が、結果として景気への効果は小さく、財政赤字が膨れ上がっただけ」と説明し
た。しかし、問題なのは、効率の悪い、無駄の多い公共投資を政府自身が行なっ
たからである。民間に比べ3〜4割高い単価を引き下げる為、指名入札制度を即
刻廃止し、公共投資の単価を引き下げれば実質の工事量は増え、景気対策として
の効果は高まる。ちなみに、大規模な公共投資が財政を悪化させたというのは間
違いで、最大の要因は景気沈滞による税収の減少である。
【体系的でない政府の経済対策】
景気対策で1番重要なことは短期的、中期的な経済効果を考え、それを体系立て
て行なうことである。しかし、政府の対策はまったく「行き当たりばったりで」
で、2年前に景気の腰折れ懸念が台頭した時、15兆円もの無駄だらけな対策を
打っておきながら、少し景況感が良くなれば、財政赤字が心配だと言って、9兆
円もの国民負担を押し付ける。その結果景気がおかしくなると、今度は景気も良
くしたいが、財政も改善させたいと、その場その場で、右往左往しているだけで
ある。新進党は短期的には「経済再建なくして財政再建なし」、中期的には「財
政再建なくして経済発展なし」という政策体系の下で、政策提言を行っているの
だ。経済・財政政策に対し、短中長期的にしっかりとした体系的なビジョンを持
たなければ、その失敗のツケは全て国民が負担することになる。