橋本首相の所信表明と答弁にみる景気判断の甘さ(97.10.2)



【構造的要因のみで循環的要因をみない総理 】
 衆議院本会議では、9月29日(月)の橋本首相の所信表明演説に続いて 、10月1日(水)と2日(木)に各党の代表質問が行われ、橋本首相と 関係大臣が答弁した。この質疑応答の中で、政府の景気判断の甘さが浮き 彫りとなり、不十分な政策対応と相俟って、先行きの景気不安は一段と深 刻になった。
 橋本首相が繰返し述べたことは、「足許の景気回復に力強さが無いが、こ れは“構造的要因”によるものであるから、土地流動化対策、規制緩和、 課税ベース拡大による増税の範囲内での法人税率引き下げなどの“構造的 対策”によって対処すれば、年度下期には回復が確りする」ということで ある。
 この判断は間違っている。現在の経済停滞要因の中には、バブル崩壊に伴 うバランスシート・リセッションなど構造的要因があるのは確かで、その 限りで構造的対策も必要である。しかし同時に、この経済停滞は、9兆円 の国民負担増と公共事業の抑制という97年度デフレ予算(負のケインズ 政策)から生まれた住宅投資と公共投資の落ち込み、および個人消費の伸 び悩みによることは疑いない。このような“循環的要因”に目をつぶって 、“構造的対策”ばかり行っても、景気は“循環的”に悪くなる一方であ る。日経平均株価が再び18千円台を割り込んできたのも、市場の素直な 反応といえる。

【景気後退の可能性強まる】
 自社さ連立に支えられた橋本政権は、この国会に「財政構造改革法案」を 提出し、数の論理で成立させようとしている。この法案が成立すると、政 府は2003年度に向って、毎年毎年財政赤字と赤字国債を減少させるこ とを義務付けられる。橋本首相は答弁の中で、「国債増発を財源として補 正予算を組むことは、この法案に反する」と述べたので、明年1〜3月中 に97年度補正予算を組む可能性も自ら否定したことになる。その上、財 政構造改革法案に沿って、98〜2000年度の集中改革期間には、公共 投資は3年連続減少を続けることになる。これでは97年度下期以降の景 気後退の可能性は、強まってきたといわざるを得ない。
 新進党の代表質問や議場からのヤジでは、「景気回復が本年度下期以降確 りしてこない時は、責任を取れ」「財政赤字拡大を伴う景気対策が必要に なった時は、誤りを認めて退陣せよ」という声が多かった。

【短期的には経済活性化を最優先すべし】
 正しい対策はこの欄の9月29日付け「臨時国会提出予定の金融財政法案 を評定する」と7月17日付け「“財政構造改革法案”は羊頭狗肉、改革 は立往生する」に書いたように、毎年毎年財政赤字を減らさなければなら ないとする単年度主義的で硬直的な財政運営を改め、目先は財政赤字が拡 大しても、法人税や所得税の減税によって日本経済を潜在成長軌道に戻す ことを最優先にしなければならない。そうすれば税収が正常化し、200 3年度の赤字をGDPの3%以下に下げることが可能になる。つまり、短 期的には「経済再建なくして財政再建なし」である。2003年度までと いう中期を考えた時、始めて「財政再建なくして経済発展なし」となるの である。
 経済学においても、短期の政策はケインズ・モデルで考え、中期の政策は 新古典派モデルで考えるのが正しい。それと同じで、短期的な最優先目標 は日本経済を潜在成長経路に戻すというケインズ主義的発想が大切であり 、中期的な最優先目標については、財政赤字を縮小して民間市場経済を拡 大するという新古典派的発想が大切なのである。