日銀短観 景気後退懸念を裏付け(97.10.1)



【業況は今後も悪化する予想 】
 9月調査の日銀短観(10月1日発表)は、先行きの景気後退を裏付けるもので、 発表直後に日経平均株価が一時365円安となったのもうなずける。
 最も注目されるのは、景気に対して極めて敏感に反応する「業況判断DI」が@7 〜9月中に予想をはるかに上回る悪化を示したうえ、A製造業は主要企業も中小 企業も12月まで悪化を続けると見ていることだ。これは年内は過剰在庫減らし の調整局面が続くことを示している。
 またB非製造業では、中小企業はもちろん、主要企業も業況が「悪い」とする企業 の数が、「良い」とする企業の数を大きく上回り始めた。これは公共投資と住宅投 資の落込みに直面している「建設」「不動産」と消費停滞に悩む「小売り」で、業況の 悪い企業が急増しているためだ。

【中小企業は不況のボトム並み】
 特にひどいのは中小企業の非製造業で「業況判断DI」は平成不況のボトムであっ た93年10〜12月並みの水準まで下がった。最も悪いのは「小売」、ついで 「卸売」と「建設」で、9兆円の国民負担増加と公共投資減少から成る97年度デフ レ予算の悪影響が、中小の建設、卸、小売にシワ寄せされていることが分かる。
 もう1つの深刻な指標は、「金融機関の貸出態度判断DI」である。中小企業は前 回引締めのピークであった91年始頃と同じ程度に「厳しい」と感じている。金融 緩和期であるにもかかわらず、中小企業だけが「金融機関の貸出態度は引締め期 並みに厳しい」と感じているのは、98年4月から始まる「早期是正措置」の影響 で、金融機関が「貸し渋り」をはじめたからである。つまり、自己資本比率を基準 とする早期是正措置に対応するため、金融機関は今から自己資本比率を高めるた めの貸出抑制(分母の圧縮)を始めているのである。これは一種の「クレジット・ クランチ」だ。

【遅行指標に依存した判断は危険】
 日本銀行では、売上げ、設備投資、雇用などの計画はプラスになっていることを 指摘して、「緩やかな回復」の基調は崩れていないとしている。
 しかし、企業内の年度「計画」というものは、一度決められると余程大きな変化が 無い限りなかなか改定されないものである。その意味で「遅行指標」である。
 これに対して「業況判断」は、営業現場の感触を直感的に答えてくれるので、敏感 な「一致指標」であり、営業マンは先を見ているという意味では「先行指標」であ る。
 従って、遅行指標を一致ないし先行指標に優先させて判断する日銀の態度は、い とつ間違えると、判断ミスにつながる。