アジアの通貨危機、日本にも責任(97.8.11)



今回の通貨危機は政策の失敗であり、経済発展の限界を示すものではない
経緯:「東南アジア通貨の対米j、円に対する過大評価」
→「東南アジア通貨への資金流入」
→「金融大緩和でバブル発生」
→「対日、米に対する競争力低下による経常赤字増大」
→「固定相場崩壊による通貨暴落」
日本の責任:経済大国として、国際通貨「円」を提供する義務を果たしていない
今回の教訓:途上国においても、資本取引自由化、為替相場のみ規制は困難、米j にリンクしていれば安全との考えは間違い→国際通貨「円」の必要性(日本の義務)

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【アジアの通貨危機は使い勝手が悪い国際通貨「円」も一因 】
 タイの通貨であるバーツが投機筋に売られて暴落し、続いてマレーシアのリンギ、 インドネシアのルピア、フィリピンのペソなど東南アジア各国の通貨も、程度の差 はあれ、一斉に値下りしている。 最近十年間、大発展を遂げてきた東南アジア経 済に、為替相場の面から危機が訪れた。
 しかしこの通貨危機は、政策の失敗によるものであり、経済発展の限界を示すもの ではない。 また政策の失敗には、日本が「円」を使い勝手のよい「国際通貨」として 東南アジアに提供していないことが関係している。 その限りで、日本にも経済大 国としての責任がある。

【為替管理(ドル・ペッグ制)で誤った政策判断 】
 タイ、インドネシア、マレーシアなどの経済に共通することは、経常収支の赤字を 抱えて急速に成長する経済であるため、高度成長を支える投資資金の調達と経常赤 字のファイナンスのため、巨額の外資の導入が不可欠ということである。 そこで これらの諸国は、80年代の終り頃までに国際的な資本取引の自由化を進めた。
 しかし問題は、為替相場を自由化(フロート)せず、固定していたことである。最近 数年間は、バスケット方式と称しながらも、事実上対米ドル相場をほとんど一定に 維持していた国が多い。 貿易や資本取引のウェイトを正確に反映したバスケット 方式であるならば、もっと日本円の影響が強い筈であるが、国際通貨としての日本 円の使い勝手が悪いので、事実上ドル・ペッグ制にしていたのである。

【米ドル、日本円に対する過大評価発生 】
その結果、バーツ、リンギ、ルピアなどの米ドルと日本円に対する過大評価が発生 した。 米ドルとの関係では、東南アジア諸国のインフレ率の方が高いので、名目 為替レートのペッグは実質為替レートのドル安を意味する。 その米ドルに対して、 最近数年間は日本円が更に下がったので、東南アジア諸国の通貨に対し、日本円は 名目でも実質でも、米ドル以上に下がった。
その結果、@米国と日本から実質値で値上がりする東南アジア通貨に向って大量の 資本が流入し、A固定相場の下で金融の大緩和が起こってバブルの発生を伴なうブ ームが起こり、B米国と日本に対する競争力の喪失で経常収支の赤字は一層拡大した。 このような加熱状態は長続きする筈はないので、固定相場制が続いている間に利益 を確保しておこうとして外資の流出が始まった。 投機筋も、過大評価の為替レー トをいつ迄も維持できる筈はないと見て、バーツなど東南アジアの通貨を売ってド ルを買う投機を仕掛けた。 このため、固定レートを支えきれなくなったタイ、イ ンドネシア、マレーシアなどが一斉に自国通貨をフロートし、為替相場の暴落とな ったのである。
日本はIMFや東南ア諸国と共にタイを支援する40億ドルの融資を決めたが、タイが バーツ相場のフロートを続けていれば、それ程巨額の資金は要らないので、危機は 次第に収まるであろう。

今回の教訓は、グローバルに資金が動き回る今日の世界経済の中では、資本取引を 自由化して為替相場のみを規制し続けることは難しいということである。
それは先進国では常識であるが、途上国でも同じだということを今回の経験は示し ている。
また米ドルにリンクしていれば安全だという誤った判断を東南アジア諸国が下して いた一つの背景には、あまりにも国際通貨として使い勝手の悪い日本円に対する不 信感がある。 円をドルと同じ国際通貨と見なしていれば、これ程のドル依存は起 きなかったろう。 政府は国際貢献の立場から、円の国際化をもっと強力に推進す べきである。