「財政構造改革法案」は羊頭狗肉、改革は立往生する(97.7.17)
秋の臨時国会提出「財政構造改革法案」の致命的な問題点は
1)「構造」不変での構造改革→支出期間の延長だけでシーリング方式と同じ
規制緩和(経済構造改革)→行政組織、人員、経費の削減(行政改革)をすべき
2) マクロ経済へのインパクト無視→経済低迷が続く結果、
@雇用悪化、A日米貿易摩擦という大きな困難に直面。
原因は今後7年間の成長率が2%にとどまってしまうことであり、経済を潜在成長
(GDP成長率3%)へ戻すことにより以下の経路で財政改善が可能雇用、企業経営の改善
→税収、対外経常黒字が正常な水準へ→財政赤字削減
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橋本内閣は97年秋の臨時国会に提出する「財政構造改革のための法律案」骨子を発表した。 この内容には致命的な問題点が2つある。
【財政「構造」改革の名に値しない羊頭狗肉 】
第一は、財政「構造」改革の名に値しない羊頭狗肉だと言うことだ。 なぜなら財政
の「構造」を変えることによって財政支出を削減しようとしている訳ではないからで
ある。 やっていることは、公共投資、文教、ウルグアイ・ラウンド対策費などの
中期的な支出計画の「構造」を変えることなく、ただ単純に実施期間を2年間延長し
て7年とし、支出増加のテンポを落としているに過ぎないからである。 これは80年
代に入って大蔵省がやってきた「シーリング方式」と何ら変わるところがない。
従って、経済構造改革や行政改革とまったく連動していない。 「構造」改革である
ならば、規制緩和(経済構造改革)で要らなくなった過剰介入の行政組織、人員、経
費を削減すること(行政改革)によって、財政支出を削減すべきである。
【マクロ経済へのインパクトを検討していない財政改革案 】
第二の問題点は、財政改革のマクロ経済へのインパクトを全く検討していないことだ。
大和総研は、改革案に示された財政支出の削減計画を前提に、日本経済の中期予測を
行って発表した。 これをみると、日本経済は少なくとも二つの点で大きな困難に直
面するだろう。
第一に、失業率が現状の3.4%から毎年上昇を続け、目標年次の2003年(財政
赤字対GDP比率3%以下)には4.0%に達する。 高齢者や若年者の失業率は、6
〜8%に達するのではないか。 それが日本の社会に様々の問題を引き起こすであろ
う事は、容易に想像がつく。
第二に、経常収支黒字対GDP比率は、96年度の1.4%から97〜2001年度に
は2%台に跳ね上がる(最高は98年度の2.5%)。 既に米国政府は、クリントン
大統領の橋本首相宛親書や、サミットの際の日米首脳会談などで、外需依存型の景気
回復に懸念を表明し、内需拡大を求めている。 橋本首相を始め日本政府の関係者は、
4〜6月の経常収支の黒字拡大は、消費税率引き上げ後の内需反動減による一時的な
動きだと説明しているようだ。
しかし大和総研の推計では、9兆円の国民負担増加と公共投資の2.5%減の結果、
97年度の内需は停滞し、経常収支黒字対GDP比率は2.3%に急上昇する。
もしそうならば、米国の対日不信感は募り、来年にかけて日米経済摩擦が激化する
こととなろう。 過去の経験によれば、経常黒字の対GDP比率が2%を上回ると日米
摩擦は深刻化したので、摩擦は2001年まで続き、日米経済関係が悪化する可能性
が高い。 その結果、為替相場は円高に動き、対外黒字の拡大に歯止めがかかるとし
ても、日本経済に対するデフレ効果は大和総研の推計以上に強まり、税収が落込んで、
計画通りには財政赤字削減の目標が達成されなくなるのではないだろうか。
雇用悪化、日米摩擦の原因は経済の低迷(解決策は経済を潜在成長経路の戻すこと)
以上の雇用悪化と日米摩擦という二つの問題点は、97年度以降7年間の平均成長率
が2%にとどまることによって起こっている。
2%という平均成長率は、92年度以降の平均1.4%という低成長で日本の経営者
が先行きに自信を失い、いわゆる「ヒステリシス(履歴)効果」で設備投資の伸びを抑え
る結果、設備制約から決まる潜在成長率が低下したことに見合っている。 しかし、
雇用制約から決まる潜在成長率は、高齢化や労働時間短縮を考えても3%程度はある
ので、失業率が上昇してしまう。 また、2%成長に見合う民間設備投資の伸びは低
いので、貯蓄・投資のバランス上、経常収支の黒字は拡大せざるを得ないのである。
このような状況では、高水準の倒産が続き、地価も底入れしていないので、不良債権
の処理も思うに任せず、金融危機の再燃もありうる。 また超低金利から脱すること
ができず、年金基金の破綻や金利生活者の困難は続く。
まず日本経済を労働制約から決まる潜在成長経路に引き上げて、雇用と企業経営を改
善し、税収と対外黒字を正常水準に戻し、それを前提に財政赤字を削減するという
考え方が財政構造改革の戦略の中に無いのが致命傷である。
このままでは1〜2年の内に経済困難と対米摩擦で「財政構造」改革は立往生するだろう。