第一回 鈴木淑夫世田谷フォーラム

第二部 植草一秀講演 全文 
日本経済から見た年金問題
 

-年金問題の抜本的解決なしに日本経済の持続的成長はあり得ない-





 1 いま一番年金を考えるべきは若年である
 
 皆様こんにちは。只今ご紹介いただきました植草でございます。

 今日は土曜日ということで、天気もよい、行楽日和の土曜日になりますけれども、このように熱心な皆様が多数お集まりということで、鈴木淑夫先生の世田谷フォーラムということで私も出席させていただきました。これこそまさに民主主義の原点といいますか、草の根の活動ということで、年金問題で実は一番年金問題を考えなければいけないのは、若年層なんですね。すでに年金を支給されている方はどちらかというと、収支でいいますと、収支はかなりプラスといいますか、払ったよりも貰っている方が多いというケースも多いわけで、若年層が払う金額よりもどうももらう方が少ないということでありますけれども、若い方も何人かいらっしゃいますけれども、非常に熱心な皆様方お集まりで、大変有意義な会に出席さしていただいたこと、大変ありがたく感謝しております。

 鈴木先生は、実は野村総合研究所でも大変お世話になりまして、その後も色々とご指導をずっといただいておりますけれども、私は学生の時の、大学3年の時のゼミ論が「1980年代の金融政策」というテーマで、拙いものではありますがまとめたんですが、その時、ほぼ、鈴木先生の様々な著作をベースに勉強させていただいておりました。直接面識はなかったんですけれども、そういう意味で、私の経済分野での研究のもともとの師匠ということでありまして、2年目は「レーガン……ミックスの再検討」ということを纏めたんですけれども、日本でもっとも早くこの構造改革ということを、非常に理論的に分析されて、もともとその金融市場の分析でまさに第一人者でありますけれど、それに加えて、戦後の日本の様々な規制で雁字搦めの経済システムを規制撤廃というような主張をもっとも早くから、理論的な枠組みの上で話していらしたのが鈴木淑夫先生であります。野村総合研究所に入りましてからも、ご面識いただきまして、色々な形でご指導いただいてまいりました。そういう意味でまさに私の恩師といいますか、師匠ということで、今日も出席させていただいたということであります。
 

 前回の選挙では、色々この党の事情とか、選挙区の事情とかいうことがありまして、議院でなくなられたということは大変残念でありますし、日本にとっても大きな損失だと思います。また今後どのようなご計画かわかりませんけれども、国政の方でもご活躍を、私としてもお願い申し上げたいところであります。

 今から30分ということでありまして、また今日はテーマとして年金制度ということでお話いただいておりますが、先程鈴木先生から足元の経済状況について色々とお話がありました。私も今日は一応、お手許にあります資料は年金の部分についても一部資料は含まれておりますけれども、全体としては経済状況についての説明資料でありますけれども、先程、鈴木先生がお話されたこととほとんど同感の部分が多いわけです。
 

 まあ、景気がよくなったと言われますけれども、どうもパッとしないというお話がありまして、ゴルフをされる方は今の景気をホールインワン景気と呼んでおりまして、ボールがカップの中に入ってしまうと、グリーンに行ってもパットしないんですね。で、パッとしない景気だからホールインワン景気などと言っておりますけれども、まあ、何処へ行ってもパッとしないなと。ゴルフでパットしないのはいいんですけれども、景気の方は困るということで、それが実感であります。そのあたりについても簡単に触れさせていただいて、そのあと年金の問題についてもお話させていただきたいと思います。
 

 2 小泉政権に年金問題の抜本的解決はできるのか

 バカの壁というお話が今ありましたけれども、自分でもう答えを出してしまってあと一切色々な情報を受け入れない状態と、そういうご説明がありましたが、実は私は、小泉首相が総理になられるちょうど1年前に、日経新聞の今、社長をされております杉田さんという方が仲介になりまして、当初から私の意見と小泉現首相の意見と全然違っておりましたので、一度意見交換をしてはどうかということで、私と先方が小泉さんと中川秀直さんという前に官房長官をされていた方、一対二で1時間半ほど時間をいただいて、お話をしたことがあります。後ほどまた時間がありましたら少し触れさせていただきますけれども、色々な説明をさしていただいたんですけれども、小泉首相は途中でもう話遮ってですね、演説になってしまうんですね。これは私、最近安倍幹事長と随分色々と親しく勉強会などさせていただいておりますが、小泉首相も自分と関係ない分野の話は非常によく聞かれるそうですけれども、自分で重い興味のある分野は、まあなんと言うか、非常に強い思いのある分野は、それと違う話が入った瞬間にはねてしまうと、そこに壁を作ってはねてしまうと。まあ、そんなことをいわれておりましたけれども、特に財政運営とか経済運営については、小泉首相に非常に強い何か思い入れがあって、そこに触れる、逆鱗に触れるというのか琴線に触れるというのかよくわかりませんけれども、そこに触れてしまうとはねてしまって、もう逆上して怒りだしてしまうようなですね、まあこんな状況で、私も1時間半時間あったんですが、もう途中で説明不能になりまして、説明が中断したということがあります。ですから小泉政権がスタートした時に、まあ恐らくこの政権で、恐らく日本はどん底に向かうだろうという見通しを述べてきたわけですが、まさにその通りになりましたけれども、これが今鈴木先生が言われていた、バカの壁と言うと失礼にあたるかもしれませんが、養老先生の表現による括弧付きのバカの壁というようなことなのかなということを感じたところであります。
 

 3 日本経済は特区」という保護政策からの転換をはかれ

 先程お話ありましたけれども、特区というのも、先日福岡で世界ロボット会議というのがありまして、「ロボットと日本経済」というテーマで私も講演をさしていただいて、ロボット君についても少し詳しくなったところでありますが、福岡県にやはり特区をとって、ロボット開発実証実験特区というですね、どういうことかというと、路上でロボットを動かして実験をするということが日本では法律上認められていない、これをその福岡市、北九州市では路上でロボットを動かして実験をすることが出来ると。単にそれだけの話でありまして、それぐらい日本の制度というのは規制で雁字搦めと。先程鈴木さんが言われた話と重複するんですけれども、特区という言葉自身が日本が不自由だということを示す言葉ですね。特区というのは中国でもその地域に限って自由を許すというのが特区なんです。ということは、特区という言葉の前提には全体が不自由であるという意味を含むわけですね。ですからこれ社会主義国だから特区であって、日本で特区としたらこの地域だけ不自由にするというのが特区なんですね。この地域はこれをやってはいけない。この地域はこれを禁止するというのが特区であるはずですけれども、この地域だけこれを認めるというのは、これはもう社会主義国の特区、そもそもそういうの、これも共通の認識であります。
 

 それから農業も、これも昨日の夜の番組でも扱っておりましたけれども、日本の農業というと非常に遅れた分野と、生産性が低いとか、競争力のない分野。報奨金が入って、外ととの競争では負ける分野と、そういうふうに決めつける論議は非常に多いんですが、技術的にあのプロジェクトXではありませんけれども、青森県でふじを作ってこれが成功した話とかですね、色々な努力の結果、やはり世界一おいしいお米、本当においしいくだもの。最近は台湾とか中国などからこの日本の高級くだものを買いつける商社の動きなんかも出てきている。中国のお金持ちは日本と比べて半端でないお金持ちがいますので、この1個何百円かするイチゴの粒とかですね、こういうイチゴをアジア諸国が日本に買いつけにくるような時代になっておりますけれども、そういう意味では日本の農業というのは技術力は非常に高い、品質も非常に高いわけですので、株式会社制度というような、この企業形態で農業を認めれば、十分競争力の強い産業として育てることも、まああり得るというふうに思います。その点も先程、鈴木先生がお話されたことと共感する分野であります。
 

 4 2004年の日本経済の好況感は陰の極からの浮上に過ぎない

 お手元の資料でポイントだけちょっとかいつまんでお話させていただいて、その後本題の年金の問題についてふれさせて頂きますが、1ページ目に今年の経済を見る上で、いくつかのポイントというのをここに書いております。経済の現状については、私も鈴木先生のお話と同感でありますけれども、実は私は3年以上前から日本経済の大きな流れが2003年に転換点、2003年が陰の極と、2004年から浮上と、こういう説を唱えてまいりました。これはワールドビジネスサテライトという番組のコメンテーターが共同で2回文庫本を出しておりまして、2年半前に出た本の中の1章を私担当しておりますけれども、その中でも2004年からの浮上と、そういう、何ていいますか、占いめいた、予言めいたことを実は書いてまいりました。実はこれは占いをもとに予測した内容でもあるんですけれども、2004年から浮上と。いうことで、実はその時代の大局観としては、昨年が陰の極で、これから少し明るい時代に転じていくのではないかと、その大局観の部分は鈴木先生と少し見解の違うところかもしれませんけれども、これは小泉政権の成果ではなくて、宇宙の法則であります。あるいは、その経済が少し明るくなったのは何故かといいますと、実は暗くなりつくしたから明るくなりはじめたということであります。
 
 

資料 日 本 経 済 の 現 状 と 展 望 ヨリ
2004年日本経済のゆくえ

1) 「陽の時代」への転換
    2003年が「陰の極」-
        冬至を過ぎた日本経済

2) 資産価格の調整一巡
      株価は長期の上昇波動へ転換
      地価は二極分化

3) 米国リスクの残存
     双子の赤字はドル下落要因-
           大統領選前後の波乱?

4) デフレ時代からの転換
    マネーの過大供給は長期インフレ要因

5) 画竜点睛の日本経済
    経済政策是正が日本経済本格浮上の条件 
 

明 る い 兆 候
  
○金融恐慌のリスク低下

   公的資金による銀行救済の先例-悪しき先例

 ○輸入・設備投資の好調

   米国:自動車、アジア:素材、国内:デジタル家電

 ○資産価格の調整進展

   PERの低下、不動産利回りの上昇

 

残る不安定要因

○景気抑圧の経済政策

      緊縮色強い2004年度財政運営

○残存する二つの不安要因

  景気の持続性に対する不安
  長期の財政破綻リスク
   
○くすぶる米国リスク
      史上最大の双子の赤字

○国際政治リスク
      イラク・北朝鮮リスクの残存

 
  昨年の春はそれでも日経平均株価7607円。5月17日土曜日でしたが、私はウェークアップという文珍さんが司会をしている番組で大阪におりまして、この日の朝、りそな銀行の問題が一面トップで取り扱われたんですが、りそな銀行、中身をつめて破綻処理していればまったくストーリーが変わったわけです。これも細かい説明は出来ませんけれども、りそな銀行がまな板の上にのせられたと。実は似たような銀行沢山あったんです。りそなだけ選ばれたんですね。何故りそなだけ選ばれたかというのを考えてみますと、りそなの前の頭取は有能な経営者だったと私思いますけれども、小泉政権の政策をかなりはっきり批判しておりました。それで選ばれてしまったんだと思います。この頭取生意気だということでですね、何とかしてやろうと。たぶん竹中さんがそう決めたんだと思いますけれども、で、まな板の上にのせて全部を細かく数字をつめますと、これ破綻処理しかなかったんです。拓銀とか長銀とか日債銀とか、最近では足利銀行が同様ですけれども、これは繰り延べ税金資産の計上で、0年か1年かと、この選択しかなかったはずです。
 

 りそな銀行の人為的救済と日本経済

 木村剛さんという方、時々出てきますけれども、この方も、5月14日のホームページで破綻する監査法人はどこかという、そういうコラムを書いているんです。1年以上もう監査法人が繰り延べ税金資産の計上を認めたら、その監査法人は徹底的に追求すべきだと。このりそなの問題が出る前に木村さんはこれを書いているわけですから、重要な機密情報が外部に漏洩していたということでもありますけれども、0年でも1年でも実はりそなは破綻処理だったんですが、あそこでりそなを破綻さしていれば、経済が完全に沈没してしまうと。みずほとかUFJとかですね、どんどん広がって、金融恐慌と。こうなれば当然小泉政権は終焉してしまうということで、最後にこれ3年計上を認めてしまって、法の抜け穴を使ってりそなは株主責任を問わずに救済した。日銀の資金で救済した訳です。これで株価の暴落を避けた格好です。

 ただこれによって何がおきたかと言いますと、大底を確認出来たと。ちょっとお手許の資料の5ページ目のグラフを見ていただきたいんですけれども、これは日本経済の断面図です。時間の経過とともに断面をとらえたグラフです。一番右端、これは昨年4月の7607年と。地の果てまで日本経済は落ちました。実はその頂上はどこかって。頂上はこのグラフに入っていないんです。左上に実はこの、それ入れますとグラフがあまり小さくなりすぎるので途中からのグラフで、最高値38915円ですね。89年の年末。この39000円の株価が結局昨年7607円ということは5分の1になったんです。地の果てまでたどり着いたということになりますか。
 
 

日本経済混迷長期化の真の原因


1)90年代の四度の景気支援政策は抜群の効果をあげた
2)日本経済の浮上が途上で挫折したのはアクシデントと「政策の逆噴射」によっている
3)2000-2003年 森政権・小泉政権の景気抑圧政策により、日本経済は再悪化した

 去年の春、この地の果ての日本経済が地盤が崩壊するリスクに晒されたと。地の果ての地盤崩壊でマグマに突入と、こういう危険がありました。それがりそな問題です。ところが政府はこれを救済しました。外資系のファンドが何故か猛然と株買いに入ったんですが、これはおそらく特殊な情報を得たと思います。日本はこの方式で救済するから、もう心配いりませんよと。外資系にとってこれ千載一遇のチャンスですね。猛然と株を買って莫大な利益を上げた。これで逆にエリートを超えたのが小泉政権です。これで総裁選と総選挙を乗り切ったと。両者の利が一致していますから取引は十分成立したと思いますけれども、それで若干回復したのがこの11000円と。それでもこのグラフ見ていただくと、まだ地の果て近辺です。ただ日本人は非常に丸い性格をしておりますので、元々15000円が11000円だったらまだまだ大変だという話ですが、一端7000円まで見ていますので、11000円でも何か気分がよくなったと。御馳走をいつももらっていた人がどんどん食事を減らされて、本当にもう一日0食と、断食までいってしまうと、あとはご飯と梅干しが出てきてもなにかありがたくなるというような、それが今の株価の状況であります。
 

 結局どういうことかと言いますと、これで私は株価で言いますと大底を確認したと。結局、地の果てまできましたけれども、地の果てで最後のリスクはここで地盤崩壊と、そういうリスクがありましたが、どうやら地盤崩壊はないと。この安心感が出てきたのが昨年から今年の最大の変化。ですから例えて言いますと通信簿でオール1をとってしまった時の安心感。オール2ぐらいが一番嫌な気分ですね。あと一歩間違うとオール1になってしまうと。ところがいざオール1をとってしまえば、まあ考えようによってはこれ以上快適な状況はありません。もうこれ以上成績が悪くなる心配いらないんですね。あとは2が一個増えても何か褒められるし、三個ぐらいとったらお赤飯を家で炊いてもらったり、まあそんな状況になりますので、このオール1の安心感が昨年から今年の変化ということで、そういう意味では清々しい、晴れやかなところに日本経済は立ち至ったと思います。
 

 6 2003年名目成長率2.7%のマユツバ

 まあこういう話をしていると、これで30分あっという間にすぎてしまいますので、ポイントだけかいつまんで、8ページにちょっと移らしていただきますけれども、ここも先程の鈴木先生のお話とちょっとだぶる部分ですけれども、日本経済よいと言われているけれども実感がともなわないと。この部分は先程の鈴木先生のお話とほとんど重なりますが、三つここに書いております。

 まず一つは、名目成長率は0近辺と。昨年2003年の経済成長率、政府が一生懸命宣伝しているのは、実質2.7という数字なんです。昨年名目成長率はプラス0.2%です。これが我々の実感の景気なんです。ご家庭の所得も、旦那さんのお小遣いも、企業の売上げも全部名目なんです。名目GDPは0.2%です、伸び率。ところが実質2.7って、どうやって計算するかというと、0.2の名目に物価が2.5下がったと。本当かどうかわからないんです。誰も確かめられません。ただ2.5下がったことにすると、実質の計算値というのは0.2.5なんです。=+2.7となり、算数教室みたいになってきてしまいましたけれども、これで政府は2.7と。ただ物価が2.5下がったのは明らかに過大推計です。先日の日経新聞にも、その技術的な問題点が指摘されておりましたけれども。ですから相当眉唾の数字です。名目成長率が本当にプラスになってきたらこれは景気回復と言っていいんですが、机の上で作られた景気回復、これが一つです。
 

 7 日本経済の構造的問題は改善していない

 それから二つ目に、需給ギャップと書いておりますけれども、今、失業率5.0%ですね。これは戦後の日本で言いますと最悪の部類です。この数字自体が実は過少推計なんです。どうしてかと言いますと、日本の失業統計は、失業して仕事を探している人だけ、求職活動している人だけが失業者です。ハローワークへ行ったけれども面接もしてもらえないと、こういうので諦めた人は実は失業者から除外されるんです。こういう方は基本的に望みも失っているということで、失業者に対して失望者なんていうふうに言ったりしていますけれども、この失望してしまっている人まで入れると、だいたい8%から9%。それから自殺者が3万2千人。昨年の交通事故の死者が8千人を下回りましたから、交通事故の4倍の死者が自殺で発生しておりますが、そのほとんどが、広い意味で言えば経済問題を背景に抱えております。
 

 三番目に先程もお話ありましたが、景気がいいのは製造業の一部です。自動車、鉄鋼、化学、機械、そして家電製品。デジタルカメラとかDVDとかですね。薄型テレビ。これは日本経済、実はGDPの中で製造業2割です。2割の中の一部が好調なんです。8割が何かと言う非製造業。ここはいぜんとして非常に悪い。特に日銀たんかんでは中小企業、大企業分けて統計が出ますが、中小企業、特に小売り、それから建設、卸売、個人消費全般が非常に悪いんですね。この下のグラフを見ていただきたいんですけれども、これ製造業の動きを示したグラフです。一番右端、少し上がっています。いつから上がったかと言うと、去年の9月、10月、11月と上がりまして、12月がそっと下がった後、1月が上がって2月が大きく下がると。これが一番右端の部分なんです。景気は去年の9月から浮上したんです。その前はどうかと言うと、2001年に大きく落ち込んで、2002年に反動の上昇があった。これは実は2001年に同時多発テロとかITバブル崩壊で、本来下がったところで下に抜けたんです。2002年そこが反動があって上がったんですが、以後ずっと横ばいで去年の9月からやっと浮上した。それが本当だったら景気は大きく落ちて鍋底で、去年の秋から少し浮上なんですが、2001年にテロがあったためにグラフの形が大きく下がったあと順調に上がっているように見えます。これは小泉さんの運の強さであります。本当は鍋底なのに鍋底を高台のように見えているということですね。
 

 8 日本の財政不安の根源に社会保障制度がある

 ただ申し上げたいのは、この94から97に日本経済本格浮上したときがあります。この94から97にかけて本格浮上した時のグラフと2001から2004のグラフを実は非常によく似ているんです。ただこの94から97浮上した時は、ご覧の通り政策が後押ししています。今、日本経済がしっかり政策の方針をかえて後押ししてやれば、本格浮上もあり得る局面です。ところがこの一番右端のところでですね、後押しするんじゃなく後ろを振り返ったら、誰かがスカートの裾を足で踏んづけてですね、前に進めないようにしてしまったりすると、ここでこけてしまうと。今、非常に大事なところと。政策が考え改めて、きちっと政策を動かせば浮上もあると、そういう局面であります。
 

 それで、ちょっと飛びますけれども、日本で大きな問題、その財政の問題があります。お手許の資料の後ろにとびまして、19ページをご覧いただきたいんですが。短期的には景気を建て直さなければいけないとありますが、私は長期的には日本の財政を建て直すということが非常に大事だと思います。この長期の財政不安がどこからきているかと言うと、これはやはり社会保障制度なんです。どうしてこれが心配かといいますと、日本の社会保障制度、まあ諸外国もだいたい同じ例が多いんですけれども、基本的には社会保障制度は現役世代の費用負担で高齢者の給付を賄うと。基本的にはそういう仕組みになっています。建前上、積み立てなんていうことを言っておりますが、実質的には負荷方式だと思います。
 
 

真の財政健全化政策の提案
一般会計の推移 
一般会計の推移

 そうするとですね、現役世代と高齢者の人口の比率が問題になります。今から24年前、1980年には65歳できってですね、それ以下の人と以上の人。1980年は現役9人に1人のお年寄りなんです。ですから9人で1人のお年寄りを支えていた。それが来年2005年は、現役4人で1人のお年寄りを支えるということになります。2050年になりますと、1人のお年寄りを支える現役の人は2人を下回るんです。1.何人で一人のお年寄りを支えると。ですから大変なことになる。今の制度のままいけば、これは間違いなく財政は破綻すると、こういう心配なんです。
 

 破綻するんだったらどうしたらいいかと。これ二通りに分かれまして、どうせ破綻するんだからもう有り金全部使ってしまおうという人も中にはいるかもしれませんけれども、だいたいはですね、将来に備えて、質素倹約と、こういうことになります。
 

 9 財政立て直しの特効薬は景気回復にある

 ここに表がありますけれども、19ページの表ですね。これは日本の財政収支なんです。財政再建大事だと。これに異論を差し挟む人は少ないんです。ただ、どうやったら財政は建て直るかということについては意見がずいぶん分かれます。ただ、現実に則して考えますと、どうして財政赤字が大きく拡大したかという原因を突き止めて、それに対応するのがやはり正しい対応の仕方だと思いますが、この税収というところを見ていただきたいんですね。税収、1990年度、60兆円を超えていました。2000年度は50兆円を超えていました。これが今年度は東証予算ベースですが41兆7千億です。つまりこの3年で税収は9兆円減った。この13年で18兆円減りました。たしかにその中に減税ということも入っているんですけれども、いずれにしてもこの税収の減少が財政赤字拡大の最大の原因と思います。

 じゃあなぜ税収がこんなに減ったか。一番の理由は、景気がボロボロになったということなんです。それからご家庭で赤字が増えて大変だと、一般的には、じゃあ質素倹約にしようと、今の痛みに耐えてよりよい明日をめざす、国民発表なんていうことになります。これは収入が一定の場合はこれで確実に赤字は減ります。収入が一定で支出を減らしたら赤字が減るんです。ところがこの家庭の場合はですね、実は支出を減らすということが財政再建の原動力じゃなく、収入が減っているのが一番の原因なんです。お父さんが具合悪くなってしまってですね、もう働けなくなってしまった。それで収入が減って赤字が増えているんです。この家庭でですね、赤字が増えたから質素倹約と。今まで一日三食食べていたけど、今日から一食とかですね、もっと苦しくなったら三日に一食と。こういうことをしたら、お父さんますます具合悪くなります。具合が悪くなったらますます収入落ちるんです。こういう場合は逆に、まずお父さんに元気になってもらうのが先なんです。栄養と睡眠をしっかりとって、お父さんしっかり元気になって、元気になったらバリバリ働いてもらって、それから質素倹約をして赤字を減らせばいいんですが、日本の場合には、とにかく収入が減ってるのが原因なのに支出を減らすことを選びます。支出を減らすと経済がさらに悪化して、収入がもっと落ちてしまうんです。
 

 10 橋本政権の緊縮政策の失敗に学べ

 右側から三つ目の欄を見ていただきたいんですが、公債金収入とありますが、これ国債発行金額ですけれども、これ国債発行金額、97年度見ていただくと、18兆4580億です。これ橋本政権があの緊縮財政をやった年なんです。たしかに前の年より3兆円赤字を減らしています。ところが問題は、その翌年が34兆、翌々年が37兆5千億。たった2年で赤字は2倍になったんです。このことを橋本元首相が2001年の自民党総裁選で説明しました。自分は赤字を減らそうと思って緊縮策をとったけれども、それが原因で景気が悪化して、税収か減って、赤字が激増したと。だから緊縮一本槍で進のは財政再建をもたらさない。小泉さん、私の失敗を繰り返すなということを橋本さんが言われたんです。ところが下から5段目ですけれども、小泉政権がスタートした時、国債発行28.3兆円でした。2年しか経っておりませんが、36兆になっているんです。ということでこれ橋本さんの警告通りの失敗を繰り返しているのが現状なんです。
 

 20ページですけれども、そういうことを踏まえてですね、私は本当の財政再建が必要だと。1の(一)、(2)、(3)と書いてありますけれども、財政再選を進めるにはこの3箇条を実現する必要があります。

 まず一つは、景気回復なくして財政健全化なし。経済がしっかりしたら収入増えるんです。財政というのは経済が生み出して果実の一部を元手に行う活動ですから、経済という木が青々と繁って初めて財政が豊かになるんです。財政がとにかく実をもぎとることばかり専念すると、経済の木を枯らします。経済の木が枯れれば必ず財政の木も枯れてくるんです。アメリカは見事に財政再建をやりましたがこれも景気回復を優先したからです。
 

資料 日 本 経 済 の 現 状 と 展 望 ヨリ
財政健全化プログラム

1)真の財政健全化政策
    (1)景気回復なくして財政健全化なし-米国の財政再建に学べ 
    (2)社会保障制度の抜本改革なくして財政健全化なし
    (3)政府の無駄を省け

 2)政府の無駄排除が先決
     地方公共団体を強制的に統合せよ?「廃県置藩」の実施
     「天下り」の全面廃止?特殊法人・公益法人改革の決定打

 3)財政政策?内容の全面的見直し不可欠
    「ばらまき」を排し、「重点施策限定」へ転換
    「特定産業救済型」を排し、「可処分所得付与型」へ
    「減税」、「失業給付」、「出産・育児支援」、「居住環境向上」、 「NPO支援」
    「高齢社会支援」、「不動産課税凍結」等を重視
   「基幹道路、拠点空港、環状道路等の基幹インフラ整備は重要
 

 11 年金改革の前に政府の無駄をまず省け

 二番目に、これがこの社会保障制度です。ここに本当のメスを入れない限り財政再建はないんだと。三番目に、実はその社会保障制度の改革というのは、かなりの痛みを伴います。ですからその痛みを国民が納得するにはその前に政府の無駄を省くべきだと思います。

 私はこの2に書いておりますように有効な方法が二つあると思っております。一つは地方公共団体の統合です。3千以上ある地方公共団体、これはもともと自由党の提案でもあったんですけれども、300ぐらいに統合すると。一つの団体をだいたい40万人の人口の地方公共団体を300作ると。地方にいきますとかなり広いエリアになります。この40万人規模の、ある程度の規模のある地方公共団体を300作って、行政権限をほぼ100%その地方に渡すと。昔のちょうど藩のイメージです。明治になりまして藩をやめて都道府県にした、これ廃藩置県と言っております。ここから日本は完全に中央集権、中央が全てを決めてきましたが、これもう一度、大政奉還ではありませんけれども、権限を地方にもどすと。ですから廃県置藩をやると。これが私の提案です。3千の地方公共団体が300になれば、地方の議院、地方の市長さん、村長さんとか町長さんとか日本で7万人もいるんです、今。これ7千人でもたぶんすむんじゃないか。もう一つは天下り制度の全面的な廃止。これで特殊法人、公益法人は私は大きく整理できる。
 

 12 年金の高福祉設計は財源的に不可能

 で、21ページですけれども、ここで本題にもどりまして、あとでまたこれらは討論でもう少し詳しく触れさしていただきますが、社会保障制度ですけれども、今いろんな論議がありますけれども、やはり問題の本質をしっかり捉える必要があります。細かい説明は省きますけれども、要するに何が問題かといいますと、日本の社会保障制度が行き過ぎた高福祉設計になっているということです。今所得のだいたい何割の年金を保障しようかと。5割なんていう話が出ていますが、これ6割に決めたのが1973年です。1973年が今の年金制度の骨格が定められたんですが、この73年というのは日本の絶頂期なんです。オイルショックのある直前に決めたと。この時は将来バラ色だったんです。ただ問題は高福祉を決めましたが、財源を考えずに給付だけ決めているんです。ところがそれから30年、日本は下り坂。この73年に老人医療費の無料化も決めているんです。これもその後立ち行かなくなってこれ停止されましたけれども、で、30年やってしまった。結局今、これ計算の方法、国庫負担を入れるかどうかによりますが、払うと約束したお金と集めたお金、600兆円差があるんです。
 

資料 日 本 経 済 の 現 状 と 展 望 ヨリ
社会保障制度の抜本改革

1)問題の本質       制度の未熟性=1961年に国民皆年金確立
                   ゆきすぎた高福祉設計=1973年に確立
                   600兆円の積み立て不足

2)根本からの再検討  高福祉の維持は負担の激増、激しい世代間不公平をもたらす
                             負担増を緩和するには給付水準引き下げが不可欠
                   給付の高水準維持を前提にしていることが本質的問題

3)財源は二者択一     財源は保険料か税金しかありえない
                   保険料による財源調達は経済合理性を伴わない
                   所得税による財源調達は経済活力の低下を生む

4)新たな制度の検討   「消費課税を主たる財源とする最低保証年金」
                   と「完全積み立て方式をベースとする報酬比例年金」
                   の組み合わせによる「新しい制度」への移行を検討すべし
                   社会保険庁の合理化も重要課題

 ですから今の制度のままいきますと、今後の現役世代は自分が社会保障で払う以外に600兆円財布から出さなきゃいけないんです。これ若い人は確実に払うより貰うのが少なくなります。払うのより貰うのが少なかったら、やっぱりこんな制度入りたくないというのが人情です。その分、私的な年金に入っていればですね、少なくとも払った以上は貰えるわけです。で、若い人が年金を払わなくなる。政府はこれを「あなたの身勝手がみんなの迷惑」なんてポスターを作って貼っていますけれども、若い人も何か共同組合かなんか作ってポスター作ってですね、「あなたの身勝手がみんなの迷惑」なんてポスター役所に貼りにいったらいいんじゃないかと思いますけれども、年金制度というのはそういう経済合理性に裏打ちされていなければ崩壊するんです。これ「インセンティブ・コンパーティビリティー」という議論でありますけれども。
 

13 消費税からの財源確保も視野に

 そうしますと結論だけ言いますと、結局かなり大幅な給付の引き下げということは避けて通れない。これが一つです。もう一つは、計算に合わないものを財源として調達するには保険料では無理なんです。これは税にかなり切り換えていかなければならない。税も所得税をとろうとすると、活力の低下をみますから、これはもう消費税のような制度を考えざるをえない。
 

14 社会保障制度の抜本改革なくして財政健全化なし

 ということで、給付を引き下げること、それから財源の調達を大きく変えること。そして年金制度そのものを今非常に複雑な制度になっておりますけれども、これをもう少し明解な制度に変える。ただその場合に問題は、現行制度から新しい制度に移行する移行期の問題というのがあります。そういう意味では解決すべき過大は山積しておりますけれども、ただこの部分を乗り越えない限りには財政の長期的な話は絶対得られないんです。

 ところが今の自民、公明の連立政権ではこの問題の議論が出来ない状態なんです。どうしてかと言いますと、公明党が福祉というのを掲げています。公明党が福祉を掲げることは私は大事なことだと思いますけれども、この公明党が所得の5割の年金保障を譲れない線と、この一点張り。ここから議論が踏み込めないんです。じゃあ自民党はどうかと言いますと、自民党の議員で公明党の支援なしに当選している議員は極めて少ないんです。ですから公明党が言ったとたんに、もう水戸黄門の「ハハー」と印籠の前にひれ伏す侍のようになってしまいますので、この議論がまったく出来ない。ですから小泉さんは財政の建て直しと言うのであれば、この年金制度の抜本改革の論議をしなければ、あまりにも無責任です。

 それから先程の点で言いますと、天下り制度の廃止ということも、殆ど手を付けていないですね。だからそういう意味で、言っていることとやっていることと全然違うと。構造改革も一緒でありますけれども、そういう意味で社会保障制度の年金制度の、もう少し具体的な各論はこのあとの討論でまた色々と論じさせていただきたいと思いますけれども、そういう非常に大きな問題を抱えていて、これは国民にとって非常に切実な問題でありますけれども、議論が入り口のところで止まっているというのが残念ながら現状だと、このように思います。

 ちょっと時間を超過いたしましたけれども、とりあえず一旦私からのご説明とさせて頂きます。どうもありがとうございました。


鈴木淑夫世田谷フォーラム

2004.3.13 世田谷区民会館集会室にて収録