【What's New】Suzuki's News Release 小泉内閣の「先行減税」は経済を更に停滞させる(H14.8.29) |
―まやかしを見破ろう―
【小泉内閣の「先行減税」は眉つばもの】
7月27日(土)の朝刊で、小泉首相が来年度における1兆円超の「先行減税」実施を
指示したと報道されて以来今日まで、私は毎日の動きを注意深くチェックしてきた。
しかし、小泉首相の指示を受けて現在塩川財務大臣と財務省の官僚が考えていること
は、景気刺激どころか、一層の経済停滞をもたらす税制改革であると思う。
株式市場もそれを感じているからこそ、一向に「先行減税」に反応せず、むしろバ
ブル崩壊後の最安値を更新しかねない弱基調を続けているのではないか。
【3年間2兆円減税、5年間1.2兆円増税を併行実施】
新聞報道によると、塩川財務大臣は、2003年から5年間の間に、2兆円の減税を始め
の3年間に実施し(合計6兆円)、1.2兆円の増税を5年間通じて実施する(合計6兆
円)というアイディアのようだ。5年間を通じてみると、増減税とも6兆円でトントン
となる。
そして、3年間の時限的減税の内容としては、研究開発減税の拡大と設備投資減税
の拡大などが伝えられている。他方、5年間の恒久増税の内容としては配偶者特別控
除など所得税の人的控除の縮小・廃止や消費税免税点の引下げなどが伝えられてい
る。
もし、小泉政権の「先行減税」の内容がこのようなものであるとするならば、少な
くとも三つの問題点がある。これは日本経済の持続的成長の基盤となるべき税制改革
からは程遠く、むしろ日本経済を更なる長期停滞に落入れるものだと言わざるを得な
い。
【増税予告付きでネット僅かに0.8兆円の減税を3年間】
第1に、マクロ的に見ると、始めの3年間は0.8兆円の減税超過(2.0兆減税マイナス
1.2兆円増税)、次の2年間は1.2兆円の増税超過(1.2兆円増税マイナス0兆円減税)であ
る。つまり、最初の3年間の減税超額の累計2.4兆円(0.8兆円×3)を、次の2年間の
増税超額の累計2.4兆円(1.2兆円×2)で完全に取戻すというわけである。
「先行減税」1兆円超とか2兆円とか言っても、実は増税を差引いたネット減税は3
年の間に僅かに年間0.8兆円である。しかもその財源は、きびすを接して4年後から
始まる2年間の増税年間1.2兆円だ。
これで減税の効果が出るであろうか。ネットの減税額が小さいうえ、直ぐに同額の
増税が来るのである。人々が合理的に行動するならば、同額の増税に備えて、減税分
を支出に回さず貯蓄しておくのではないか。
【減税は法人へ、増税は個人へ】
以上はマクロ的に見た場合の話であるが、第二に増減税の内容に立入ってみると、
減税の中心は投資減税・開発減税であるから、その恩恵を受けるのは主として法人で
ある。これに対して増税は個人(所得税の人的控除縮小)と零細業者(消費税の免税
点引下げ)の肩に懸って来る。
ここに二つの問題がある。一つは、法人減税に伴なう投資拡大の効果と、個人や零
細業者に対する増税が生み出す消費抑制の効果と、マクロの経済効果としてどちらが
大きいかという問題である。GDPの6割は個人消費である。その個人消費が増税によっ
て減少すると予想されれば、法人の能力拡大のための設備投資も抑制されるであろ
う。これが投資減税、開発減税に伴なう設備投資の拡大を相殺することは十分に考え
られる。
そうなると、法人減税と個人・零細業者増税の効果は、差引きして減税効果のマイ
ナスの方が大きいのではないか。
【個人増税で法人減税を賄う不公平】
もう一つは、個人と零細業者に対する増税によって、法人に対する減税を賄うとい
うことは、不公平ではないかという問題がある。より端的に言えば、こんなことが政
治的に通るのか、選挙民に反対されるのではないか、という点である。
経済の理屈としては、法人減税によって設備投資が拡大し、経済成長率が高まれ
ば、雇用と賃金も回復するので個人所得も増えるので、不公平ではないという主張は
ありうる。
しかし、前述のように設備投資の拡張効果が小さく、個人消費の縮小効果のほうが
大きいとすれば、このシナリオは成り立たない。不況が深まって、個人は増税と不況
の二重苦に苦しむことになる。
【減税は時限的、増税は恒久的】
最後に第三の問題点として、減税は時限的、増税は恒久的とはどういう事か。これ
では、5年間の増減税は6兆円ずつでトントンになるとしても、6年目以降は1.2兆円
の個人と零細業者に対する増税が残ることになるではないか。これで持続的成長が出
来るのか。
要するにこれは、3年間の時限的減税をちらつかせて、恒久的な増税を実現しよう
という国民を馬鹿にした話ではないのか。塩川大臣は知ってか知らずか、財務官僚の
増税路線、財政再建路線に乗せられているではないか。
構造改革で持続的成長路線に戻るためには、将来の行政改革に伴なう歳出削減を財
源として、いま法人税と所得税の先行減税を実施しなければならない。それが改革と
景気を両立させる「眞の先行減税」である。
伝えられる小泉政権の「先行減税」はまやかしである。日本経済を立て直すどころ
か、更に停滞させる原因となるであろう。